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【カゲマス】外伝「散りゆく陰への鎮魂歌」第二章 導かれし時の英雄たち(WEB小説スタイル)

カゲマス!

陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン「散りゆく陰への鎮魂歌レクイエム」を文字で読みたい方のために文字起こしをしました!

どんなお話か気になる方や情報を整理したい方は是非お読みください! 

第一章↓

登場キャラクターや最新情報まとめ↓

Episode 1

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
ガンマあははははっ! ははっ、はははははっ! 全部、ぜーんぶ! おぶっ壊して差し上げますわー!
イプシロンうっ……もうっ! やりにくいったら、ありゃしない!
ガンマそれ! 当たれ! 当たれ当たれぇ!
デルタっ、ガンマのくせに……!
デルタだけど、あの攻撃当たると絶対にやばいのです!
ガンマ野生の勘ってやつ? あはははっ、だーいせーいかーい!
ガンマ最強ガンマ様の攻撃はー……当たれば即死の一撃必殺でーす! 粉みじんになって、さらさら~って風に攫われちゃうよ~!
アルファ(動きが読めないのはいつものことだけど、  破壊力が本当に笑えないわね)
ガンマじゃ、いきますよ~。 そーれっ。
クレア消えた?
アルファ避けて!
ガンマばあ。
クレアっ! いつの間に――
クレアがはっ!?
ローズクレアさん!
ガンマどう? 私サイキョーでしょ!
クレアう、ぐ……あ……。
アルファこれは……。
アルファ(左肩から先が、完全に吹き飛んで消えている……)
アルファ(たった一撃でこれ……。  とんでもない力ね)
イプシロンアルファさま……。
アルファええ、分かってるわ。
アルファイプシロン、ゼータ、デルタ! 3人で囲んで! 一気に押し切るわよ!
イプシロンはい!
ゼータ任せて!
デルタがう!
ガンマあら? 3対1? 別にいーけど、負けたらチョー恥ずかしいって分かってる!?
アルファ3対1……果たしてそうかしら?
ベータ&イータ…………。
ガンマなるほど。前衛3人で攪乱させて、 隙を見せたら後ろのふたりがズブリってわけね。
ガンマえー! 弱い者イジメ、よくなーい! ま、5対1でも、弱いのはそっちですけどねー!!!!
イプシロンガンマ。元に戻してあげる。 方法はまだ、分からないけど。
イプシロン必ず、必ずね。
ガンマ私は、元に戻らなくても一向に構いません。 ていうか、絶対に嫌なんですけど!
ガンマ非力で、いつも陰に隠れていて、 お金を稼ぐことしかできない。
ガンマそんな最弱な私、なんの意味もないですし!
イプシロン誰もそんなこと思っちゃいないわよ。 それがあんたの本心とも思えないけど。
ゼータ今は何を話しても無駄だと思うよ。
デルタとりあえず、ぶっ倒してみるのです!
ガンマそんなの、できるわけないじゃーん!
ガンマはあああああ……!
デルタ……がう? 速くなってるけど、いつものガンマと変わってない?
デルタやっぱり、ガンマはガンマなのです! こんなの楽勝なのです!
アルファ油断してはダメ!
ガンマニカァ!
デルタっ! いつもより全然速いのです!
ガンマええい、ちょこまかと虫みたいに!
デルタわっ! とっ! がっ!
ガンマどーしました!? 防ぐので精一杯ですか!?
デルタこんの……ガンマのくせに!
ガンマぎゃん!? や、やりますね! ではスピードアップです!
イプシロンはっ!
ゼータくらえっ!
ガンマふん! そんな生ぬるい魔力、 通用すると思って!?
ガンマ……とはいえ鬱陶しいし、 そこのふたりから先に――
ガンマぐえっ!?
ベータこっちもいますよ!
イータ背を向けたら……やる。
ガンマむっきぃぃぃ!!!!
アルファいいわ! みんな、そのまま攻め続けて!
アルファこちらが攻撃を受けないように、連携して牽制し合うのよ!
ガンマぐう……! まったく次から次に! このせっかちさん!
イプシロン防戦一方で、イライラしてそうね。 いけるかも……!
アルファデルタもいったん退いて! 今のガンマに、接近戦は――
デルタ隙あり!!!!
デルタがうっ!?
ガンマ残念~!!!! 隙なんてありませーん!!!!
アルファデルタ!
ゼータバカ犬!!!!
イプシロンっ!
イプシロンぐああっ!?
アルファイプシロン!?
ガンマえ、そっち?
アルファ(あ、危ない……。  間一髪、デルタを押し倒してくれたおかげで、助かったわ)
アルファ(だけどイプシロンが背中に傷を……)
ガンマそんなにミンチになりたいなら。 ふたりまとめてお料理してあげますわ~!
ベータさせません!
ガンマきゃあっ!? もー!
アルファデルタ! 今のうちにイプシロンを!
デルタがう……。
イプシロンくっ……すみません、アルファ様……。 不覚をとりました……。
アルファしっかりして!
アルファ(背中の傷が酷い。  満足に治療ができないこの状況じゃいずれ……)
ガンマきゃははははは! 次は誰ですか~! 負ける気がしませんねぇ!
デルタがう……アルファ様……。
アルファ大丈夫よ。とにかく今はガンマを抑えないと。
アルファ(ガンマのあの無茶苦茶な剣筋は、  軌道が予測不可能だし、近づくこともできない)
アルファ(遠距離からの攻撃も弾かれてしまうし、  隙がないように見える)
アルファ(……でも、策はある。いや、あったのに)
アルファ(イプシロンが抜けた分、  ガンマの猛攻を防ぐのが難しくなってしまった)
アルファ(このままじゃ……)
ドゥーエねえペンテ……。 足手まといなのは分かってる。でも。
ペンテ行きましょう。 数で抑え込めば、なんとかなるかも……!
オリヴィエはあ……待て、ふたりとも。 私がいく。
ドゥーエえっ?
オリヴィエその獣人ふたりと一緒に、 攻撃を避けて錯乱させ続ければいいんだろ?
アルファえ、ええ……。よく分かったわね。
オリヴィエだがそのやり方だと時間は稼げるが、 隙なんて生まれるかどうか。
アルファその点は大丈夫よ。 ガンマのことは、誰よりも分かってる。
オリヴィエ……分かった。そこまで言うなら任せよう。
ガンマ作戦会議は終わりましたかあ?
ガンマどれだけ考えても、全部おぶっとばしてあげるから、 意味ないと思いますけどー!
アルファみんな、手はず通りに。 引き続き、ベータとイータは後ろから援護お願い。
ベータはい。
イータ分かった……。
アルファ私はゼータ、デルタ、オリヴィエの後ろに。 ガンマが隙を見せたら……やるわ。
ガンマどーせ時間の問題でしょ? 言っとくけど、私に魔力切れとかないからー!
ガンマ全部巻き込んで、 切り刻んでやります!
ガンマうおりゃああああああ!!
オリヴィエ……ふん。
ガンマ避けっ……!? このっ!
ローズす、すごい……。 あんな近距離で、攻撃をすべてかわしてます……。
アレクシアあの不規則な動きを、どうやって予測してるのよ……。
ゼータ(……違う)
ゼータ(あれは動きを予測してるんじゃない。  見てから避けている)
ゼータ(私は遠距離攻撃で牽制しつつ、  そもそも間合いに入らないようにしてるってのに)
ガンマこの! このこの!
オリヴィエくっ!?
ガンマあははは! 当たったわね! ほら、もっと速くなるわよ!
オリヴィエおい、このままじゃ……。
アルファ大丈夫よ、避け続けていれば、必ず……!
ガンマそれ! それそれそれそれぇぇぇ!!!! いい加減……ぐちゃぐちゃにぶっ潰れ……うわぁ!?
オリヴィエそこだ!
ガンマぐえっ!? しまっ――剣が……!
アルファ今! はあああ!
ガンマぐはっ!?
アルファ確保!
デルタがうっ!
ガンマぎゃー!
ゼータこのっ……すごい力……! みんなも!
ガンマわ……あ……さすがに、この人数は……無理ぃ……。
ドゥーエすごい、本当に無力化した。
ペンテオリヴィエもすごいけど、あの人たちも……。
アルファごめんなさいね、ガンマ。 しばらく、眠っていてちょうだい。
アルファ……ありがとう、みんな、オリヴィエ。 おかげでなんとかなったわ。
オリヴィエ攻撃を避けるだけでなんの意味があるかと思っていたが、 そういうことか。
オリヴィエガンマの規則性のない動き、並外れたパワーとスピード。 だが、それがいくらあっても――
オリヴィエ絶望的なほど、戦いの才能が、ない。
アルファそれが、ガンマよ。
ローズしかし、なんとか制圧はできましたけど……。
アルファ(被害が……大きすぎる。  イプシロンもクレアもやられてしまった)
アルファ(ああ……お願い。こんな時こそ、  時間が戻ってくれれば……!)
フレイヤリリ。そっちはどうですか?
リリはい、大丈夫そうです。
ローズこれだけ被害があって、大丈夫もなにも……。
クレア………………。
ローズく、クレアさん!?
アルファえっ……どうなってるの……? 確かに左腕がなくなっていたと思うのだけど……。
クレアわ、私も何がなんだか……。
リリイプシロンさんの治療も終わりました。 これで問題ありません。
イプシロンアルファ様……私…… 血を流しすぎて、意識も消えかけてたんですが……。
イプシロン生きて……ますよね。
アルファえ、ええ……。
クレアついてる……わよね……。 間違いなく。
クレア違和感もまったくない。 もしかして勘違い……だったような気すらするわね……。
アルファそんなわけは……と言いたいところだけど、 私も分からなくなってきたわ。
アルファどうなってるの……?
リリおふたりとも生きていましたから。 だから、治せました。
アレクシア言っている意味が分からないのだけど。
イータ……見てた。 腕は、確かになくなってた……。
イータでも、彼女が魔力を込めると…… 傷口から、生えてきた……。
アレクシアは、生え……。
オリヴィエ死んでいなかった。 死んでさえいなければ、リリなら治せる。
オリヴィエそれだけだ。
ゼータ&ベータ………………。
ローズ&アレクシア………………。
デルタ……がう?
オリヴィエすんだのならさっさと行くぞ。 そいつは見張りでもつけて牢に放り込んでおけ。
アルファあ……ありがとう、オリヴィエ。 そしてリリ。助けられたわね。
リリいえいえ! 私たち、もう仲間ですから!
オリヴィエ……別に。
ゼータあ、おいちょっと!
イプシロンえ、なんか機嫌悪くない? なんで?
アルファ……これが、三英雄。 とんだ化け物ね。
アレクシア………………。

Episode 2

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
ガンマ……ふ……ふふふ……。
デルタがう?
ガンマあはははははっ! 最強ガンマ様、ふっかーつ!! わたしがやられるとか、うっそじゃーん!!!!
ベータえ、たった今、取り押さえたはずなのに……。
オリヴィエ……懲りないな。 何度やっても結果は変わらない。
ガンマそれはどうかしらね……えいやっ!!
オリヴィエ何……!?
ベータた、竜巻が!? 一振りで、そんな……!
オリヴィエぐっ……ぐああああああ!?
リリああ……! オリヴィエさんが!!
ガンマさあ、次はあなたたちの番よ! 月までぶっ飛ばして、クレーターを増やして差し上げますわ!
ベータきゃあ!
フレイヤくっ……! 飛ばされる……!
ベータダメ……このままじゃ……全滅してしまう……!
シャドウ……ふん。心地のよい、そよ風だな。
ベータえ!?
ガンマそ、そんな……まさか!
シャドウガンマ。そのザマでは、先へつれて行けない。 ……ここまでだ。
ベータシャドウ様ぁ!!!!
ガンマま……まさか……ガクガク……。 本物……ドキドキ……。
ガンマいえ、そんなわけないわ! 騙されちゃダメよ、ガンマ!
ガンマあなたは出来る子なんだから! ニセモノなんか……はい! ぶっ飛ばせー!
ガンマっ! え、ええ!?
シャドウ飛んで行くがいい。 月だろうがどこまででも、好きなところにな。
ガンマい、いやああああああ!!!!
ベータシャドウ様……? ほ、本物なのですか……?
シャドウ姫よ。そのあどけない瞳には、 我が幽鬼に映っているのか?
ベータっ! いいえっ! シャドウ様! 偉大で、神々しいお姿です! きっと……生きていらっしゃると信じていました!
シャドウ機は熟した。 この世界を統治してシャドウ様キングダムを作る。
ベータああ……シャドウ様キングダム……!
ベータ毎夜、眠る前に語っていただいていた、 あの悲願をついに実現されるのですね……!
シャドウそうだ。 ……さあ姫。手を。
ベータはい!
シャドウ我と共に新たな時代を築くのに、 相応しい人は、ただひとりだ。
ベータシャドウ様!! 行き着く先が地獄でも、ついて行きます!
アルファおめでとう、ベータ。 彼の隣はあなたのものよ。 さあ、みんな! 拍手で見送りましょう!
オリヴィエ拍手喝采、大歓声…… 旅路への第一歩に相応しいな。
イプシロンまったく……シャドウ様に相応しいのはあなたしかいないわね。
デルタおめでとうなのです!
イータ……おめでとう。
ガンマおめでとう!
ベータ私……必ず彼と一緒に、 シャドウ様キングダムを建国して、幸せになりまあす!
アルファ――というわけなの。
クレアあなたの話を信じるなら…… そのアーティファクトを使えば、 シドは生き返ることができるのね……?
アルファええ。 あなたの弟だけじゃなくて、シャドウもね。
ゼータつまり、不可逆の懐中時計を持っている黒幕を捕まえて、 奪い取ればいいってことだね。
イプシロン元の時代に戻るための手がかりも、 その辺りにありそうです。 今後の指針にするとして……ガンマはどうします?
アルファ彼女は……このまま幽閉しておきましょう。 ……元に戻せるかは、分からないけど。
ゼータ見張りはつけておく?
アルファそうね…… ベータ、どう思う?
ベータ……はあ……ウ様――
アルファベータ?
ベータっ、は、はい! シャドウ様の話ですよね!?
アルファ……シャドウではなくて、ガンマよ。 あなた、どうしたの?
ベータえ……あ……ごめんなさい。 少し、疲れが出たみたいで……。
アルファ……まあいいわ。 ユキメ、見張りをお願いできるかしら。
ユキメはいはい、お任せを。
アルファええ、よろしくね。 ガンマとユキメが動けない分、 私たち5人の働きが重要になってくるわ。
アルファこれから私たちは黒幕を探し出し、 不可逆の懐中時計を手に入れなければならない。 そのためにまず――
アルファフレイヤ、あなたたちに協力して、 ディアボロスを倒すわ。
フレイヤ分かりました。
アルファええ。じゃあ今後の動きだけど――
クレアちょっ! 待って待って!
アルファどうしたのかしら?
クレア展開が急すぎてついていけないんだけど……。 なんでさらっと流してるわけ?
アルファそうすることで、互いにメリットがあるからよ。
リリあのー……わからないんですが。 不可逆の懐中時計を見つけるという話が、 なぜディアボロスを倒すという話に?
リリ私たちにとっては、ありがたいのですが……。
アルファシャドウやシドの復活には、 ディアボロスを倒すことが必要不可欠だからよ。
アルファ黒幕は不可逆の懐中時計によって、 シャドウをこの時代に呼び出した。
アルファシャドウだけではなく、私たちまで呼ばれてしまったのは、 黒幕にとっても計算外だったでしょうね。
アルファしかしシャドウは、ディアボロスに負けて死んだ。 そしてその直後、時間が巻き戻った。
アルファシャドウが、死んだあとの時間に。
フレイヤ黒幕の目的がシャドウという男なら、 不可逆の懐中時計でシャドウが死ぬ前に戻るはずです。
フレイヤですが、そうしなかった。 それはなぜか?
フレイヤしなかったのではない。 できなかったのだと思います。
サラサつまりぃ、ディアボロスが不可逆の懐中時計に影響を与えて、 時間遡行の邪魔をしている、ってことね。
フレイヤその通りです、サラサ。
サラサせっかく強力な魔力を取り込んで、 パワーアップしたんだもの。
サラサやっぱナシで! ってことにされたら、 たまらないわよねえ。
アルファええ。だからシャドウとシドの生きている時間に戻るには、 障壁となっているディアボロスを倒さなくてはいけない。
アルファそしてその間に、黒幕も見つける。 これがシャドウガーデンの目的よ。
フレイヤディアボロスを倒す、黒幕を見つける、 そのどちらも、わたくしたちの目的と合致しています。
フレイヤだから協力する。 ……もっとも、黒幕はあなたたちの中に潜んでいると、 わたくしは考えていますがね。
アルファあら。私は、あなたたちの中にこそ、 黒幕はいると思っているわ。
アルファこの時代で成し遂げたい何かがある。 そのために、過去にシャドウを呼び寄せたのではないかしら?
フレイヤ過去を変えることで理想の未来を手に入れたい。 そんなことを考える輩は、どの時代にもいそうだけど。
アルファ&フレイヤ………………。
リリお、落ち着いてください、おふたりとも。
リリ互いに協力するんですよね? 疑うことをやめて、もっと歩み寄りましょう。
オリヴィエ本来ならディアボロスは、 私たちだけで倒せた。
オリヴィエお仲間が余計なことをしたせいなのに、 共闘を持ちかけるのか。
ベータなんですって!?
ルージュ彼の魔力を吸収したことで、 ディアボロスが手に負えないくらい、 強力になってしまった。
ルージュ少し迂闊だったかもな。 愚かというか、蛮勇というか。
ベータ愚か? 蛮勇? まるでデルタを指すかのような、 その単語はシャドウ様を表すのに非常に不適切です。 即座に撤回してください。
デルタ今、デルタの名前呼んだ? 難しい言葉いっぱい…… 何言ってるかわかんないのです。
ベータシャドウ様は偉大なお方です! 叡智に富み、崇高な理念のため粉骨砕身お働きになり、 比類なき力を持ちながら驕ることがない、人格者!
ベータ今回の件も自分の死を予測し、復活するまで、 全て織り込み済みの計画に違いありません。 つまり! 愚かでも蛮勇でもないのです!
ゼータベータ? ちょっと落ちつきなよ。
ベータ何故ならシャドウ様は全てを超越した方ですもの! 彼が歩けば花が咲き乱れ、星は流れ落ち、敵は地に伏せる! そして鳴り響く管弦楽団のファンファーレ!!
イプシロン……呆れた。 話してる内に妄想の世界に入ってるわね、これ。
フレイヤ……はあ……まったく…… 本当によくわからない人たちですね。 聖教の上の方々にどう報告したものでしょう……。
フレイヤ討伐できませんでした。 謎の未来人を取り込み、超進化しました。
フレイヤ私たちもディアボロスの犠牲になりましたが、 時間遡行の能力により蘇りました。
フレイヤ頭が……痛い……。
オリヴィエ分かりません、でいいだろ。 どうせ説明できないんだ。
フレイヤそれは聖教への背信行為ね。 ねえオリヴィエ、いつも言っていますが、 私たちは聖教に拾われた恩が――
リリいえ! 全てありのままに報告しましょう。 みなさん、きっとリリたちを信じてくれます。 だって、同じ聖教の仲間なんですから!
オリヴィエだと。 好きにしてくれ。
フレイヤ……もういいです。 初めからあなたたちは頼りにしていません。 わたくしがなんとかします。
イプシロン……少し驚きました。 素の彼女はあんな感じなんですね。
ゼータそれを言うなら、 最初からイメージとは違ったよ。
ゼータ歴史上伝わるフレイヤといえば、 ミドガルを建国し、民に寄り添う優しき人格者だ。 でも、目の前の彼女はそれとは違う。
ゼータまあ、フレイヤにだけ言えることじゃないけど…… 後世にまで伝わるものには、 もしかすると虚像や脚色が入り混じるのかもね。
アレクシア………………。

Episode 3

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
オリヴィエとにかく、好きにしてくれ。
フレイヤどこに行くんですか?
オリヴィエその辺にいる。 話がまとまったら呼べ。
フレイヤのんきに昼寝でもする気ですか。
オリヴィエそんなところだ。
アレクシア……ねえ、聞きたいんだけど。
オリヴィエ……誰だ、お前。
アレクシアあなたはなんのために戦ってるの?
オリヴィエなぜ、そんなこと――
アレクシア答えて。
オリヴィエ…………暇つぶしだ。
アレクシア暇つぶし……? それだけの、才能を持っていながら?
アレクシア私の理想とする人は、決して驕らず、 常に努力をして自分自身を磨いていた。
アレクシアなのに、あなたは……。
オリヴィエはあ……。
オリヴィエ努力で振るう剣は美しく、 才能で振るう剣は傲慢だとでも?
アレクシアっ!!
オリヴィエ未来人はよく喋る。 力を得た過程がそんなに重要か?
オリヴィエ話し合いの結果には従う。 勝手にしてくれ。
アレクシアっ……許せない……。
クレアアレクシア王女……!?
ローズ今、剣を持って行きましたよね……?
559まさか、やり合おうって?
ユキメあらあら…… 手を組みましょうって時に、切り合いはご法度でありんすよ。
アルファまったく……様子を見てくるわ。 場合によっては止めないと。
オリヴィエ……理解できないな。
オリヴィエ自分の前に剣を抜いて立つ意味が、 わかっているのか?
アレクシアそんなの、どうでもいいわ。 もっと大事なことがあるのよ。
オリヴィエ………………。
アレクシアはああああっ!!
オリヴィエ……凡才が。
アレクシアっ、ぐあっ……!
オリヴィエ……他愛もない。
オリヴィエ剣を向けてきた覚悟はできているな? では――
フレイヤオリヴィエ!
オリヴィエ……ふん。
アレクシアぐっ……どうして……どうして!?
アレクシアどうして彼の剣が破れて、あなたの剣が生き残るの……? 天才の剣の道のほうが、優れているとでも?
アレクシア……彼がいなくなってしまったのなら……私が証明する! この剣の道が、劣ってなんかいないってことを!
オリヴィエ己を信じて足掻き、高みに至ろうとするか。
オリヴィエそれは、私のもっとも嫌いな、持たざる者の剣だ。
アレクシアっ!?
オリヴィエ………………。
クレアアレクシア王女、傷の手当てをしましょう。 今、肩を――
アレクシア必要ない!
クレアえ?
アレクシアっ……いえ、ごめんなさい…… 肩を貸してくれる?
クレアええ、もちろんです。
イプシロンアルファ様。 オリヴィエは今、本気で彼女を……。
アルファそうね……。
フレイヤあまり追及しないほうがいいですよ。 今後の関係に遺恨を残したくはないでしょう?
アルファ………………。
フレイヤはあ……。とにかく、ディアボロスとあなたたちの件は、 聖教にはうまく報告しておくわ。
フレイヤと、それよりも……アルファ。 もっと建設的な話をしましょう。
アルファ……ええ、賛成だわ。
フレイヤディアボロスを直接叩く前に、 配下の吸血鬼を倒しておきましょう。 戦力を削いでおく……かまいませんか?
デルタえー! そんなの回りくどいのです! ディアボロスと戦おう!
アルファデルタ、黙って。
デルタがう……。
アルファ戦力を削ぐのに異論はないわ。 ディアボロスと戦っている時に、 吸血鬼の軍勢が押し寄せてきたら厄介だもの。
アルファ何か吸血鬼の情報はあるのかしら?
フレイヤわたくしたちが叩いておくべき相手は、 ディアボロスの配下で最大勢力の一派を率いる吸血鬼…… 『ゲキツヨン』です。
フレイヤまずは明らかになっている、 やつの拠点のひとつを潰しましょう。
アルファ拠点がわかっているのに、 今まで何もしてなかったの?
フレイヤその拠点には西と東に入口があり、掃討するには、 ふた手に分かれて突入する必要があるんです。
フレイヤですので、隊がふたつに分かれてしまう。 片方は私が指揮をして、もう片方はサラサに指揮を任せても よかったのですが……。
フレイヤ少し、荷が重いかもと手をこまねいていました。 でも、あなたなら。
アルファ……いいわ。協力しましょう。
フレイヤ東西の入口は離れています。 山脈を挟む形になっているので、 東側の入口に行くには、それだけで数日を要します。
フレイヤ東側へはわたくしたちが参りましょう。 こちらの到着を待って、 あなたたちは西側の入口から突入してください。
アルファええ、わかった。 ただそちらの陣営にベータとゼータをお願いするわ。
アルファふた手に分かれるのなら、 そっちに知った相手がいたほうがタイミングを取りやすいの。
フレイヤ問題ありません。
クレア待って。私もいいかしら。
アルファえっ。
クレアこれは、私にとっては、シドを救うための戦い。
クレアただの足手まといにはならないわ。 自分の弟は、自分の手で取り戻す。
アルファ……ええ、いいわ。 ならベータやゼータと一緒に、東側に同行してちょうだい。
アルファフレイヤはそれで――
フレイヤ問題ありませんよ。
クレアはい。ありがとうございます。 よろしくお願いします。
フレイヤしかし、そういう理由であれば、 わたくしたち側の人間もそちらにいたほうがいいですね。
フレイヤノンナとルージュにお願いします。
ルージュ承知。
ノンナはいはい、了解。
アルファとはいえ、あまり多すぎても目立つでしょうね。
アルファ西側は……そうね。 私、イプシロン、イータ、アレクシア、 ウィクトーリア、ノンナ、ルージュでいくわ。
フレイヤでは東側は、 わたくし、オリヴィエ、リリ、サラサ、 ベータ、ゼータ、クレアでどうでしょうか。
アルファ分かったわ。
アルファ詳しい作戦を立てましょう。 拠点に戻ってるわね。
アルファゼータ。
ゼータうん。
ゼータわかってる。 向こう側のメンツを見張ればいいんだよね。
アルファええ、素性がまったく知れない相手だもの。 それに食えない人よ。 あちらからも自然に送り込まれてしまったわ。
アルファ頼んだわよ、ゼータ。 数日一緒にいれば見えてくるものもある。 探ってきてちょうだい。

Episode 4

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
ベータシャドウ様…… 玉座からの景色はいかがですか?
シャドウ世界の統治は瞬く間に成った。 なんの感慨もない。
シャドウそれに、重要なのは過去よりも未来だ。 このシャドウ様キングダムを、 未来永劫のものとしなければならない。
ベータはい! このベータ、どこまでもついて行きます。 シャドウ様の……国王陛下の、唯一の妃として!
シャドウよく言った。 我が比翼の自覚があるのなら、 さらなる力の神髄を見せてやろう。
シャドウ刮目せよ――
ベータこ、これは……!? シャドウ様が巨大化している……!?
ベータめ……目の前がシャドウ様でいっぱい! ああっ、ああっ、なんて幸せなのでしょう!!
ベータげほっ! げほげほっ……! ……はあ……はあ……。
サラサベータさん、大丈夫? もしかして、気、失ってた?
ベータ……問題ありません。 少し休憩していただけですから。
サラサそ、そう?
フレイヤ襲撃してきた吸血鬼は今ので最後ね。 サラサ、被害は?
サラサないわよお。 フレイヤちゃんの指揮のおかげで、みんな無事。
サラサだけど。
ベータはあ、はあ……。
ゼータベータ、水飲んで。
ベータええ……ありがとう……っ……。
リリですが、まさか吸血鬼たちに出くわすなんて……。 ちょうど拠点に戻るところだったみたいですね。
オリヴィエ運が良かったのか、悪かったのか。
フレイヤどうせ、拠点に乗りこんだら殲滅する手はずだったのです。 先んじて戦力を削ぐことができたので、よかったと思いますよ。
サラサ幸い、約束まではまだ日にちがあるからねえ。 この先の村で、少し休みましょう。
ベータゼータも負荷がかかっているでしょう。 あなたは大丈夫なの?
ゼータまあ、なんとか。 私はさっき少し休むタイミングがあったから。
ベータならいいけど……。
クレア………………。
クレアねえ、ちょっと。
フレイヤなんですか?
クレア拠点を出て数日…… ずっとゼータとベータがフル稼働しているわ。 ポジションを代えるか、休ませるべきよ。
フレイヤ西側に行ったわたくしたちの仲間の指揮権は、 アルファに渡しています。
フレイヤそして東側の指揮権はわたくしに委ねられたのです。 あなたの主張は越権行為であり、 チームの統率を乱すことに他ならないと理解していますか?
フレイヤそもそも、ポジションを変更するとおっしゃいますが、 他に誰が、彼女たちの代わりができますか?
フレイヤあなたでは力不足ですよ。
クレアな!?
フレイヤですが……不満を溜めている人を指揮するのは、 わたくしも本意ではありません。
フレイヤベータ、ゼータ。
ベータ……いえ、このままで大丈夫です。
ゼータ同じく。
ベータアルファ様とはまったく違いますが…… フレイヤさんの方針が、間違っていないことはわかります。
ベータチーム全体として、最大限の能力を発揮できる、 無駄のない指示ばかりで……合理的な判断かと。
ゼータ戦闘中、極端にひとりに負荷がかかる瞬間がある。 だけど……そうだね、合理的だとは思う。
フレイヤでは、引き続きお願いします。 潜伏している吸血鬼、残らず狩ってください。
ベータ了解です。
ゼータ了解。
フレイヤと、いうことです。
フレイヤ本人が納得して、わたくしの考えを理解しているのに、 外野が文句を言う道理は……ありませんよね?
クレア………………。
フレイヤ理解していただいたようで、なによりです。
ベータ残党は、すべて狩りました。 このあたりにはもう、敵の気配はありません。
フレイヤそのようですね。 では、行きましょうか。
フレイヤサラサ。
サラサはい~。
フレイヤもうすぐ村に着きます。 私たちが滞在している間、見張りをお願いします。
サラサうん、了解だよ。 任せて。
ゼータ(見張りって……吸血鬼は殲滅したはず。  もちろん、用心するに越したことはないけど、たぶん……)
フレイヤなんでしょうか?
ゼータ……なんでも。 指揮権は、そっちにあるからね。
リリベータさん、大丈夫ですか? 顔色がよくありませんが……。
ベータ……平気です。お気になさらず。
ベータ(……たくさん、殺した)
ベータ(これまでなら、そんなこと、どうでもよかった。  だって……)
ベータシャドウ様……。
村人Aようこそ。よくいらっしゃいました。
村人A寝床は空き家があるのでそこを使ってください。
村人Aまた、夜は宴と簡単な余興を開こうと思いますので、 ぜひご参加くださいね。
フレイヤありがとうございます。 ご丁寧にもてなしていただき、痛み入ります。
村人A気になさらないでください。 みな、騒ぐのが大好きなだけですよ。
村人A何かあれば、声をかけてください。 では、夜までごゆっくり。
クレア親切な村ね。 急に来た旅人にここまでしてくれるなんて。
フレイヤ……ふっ、そうですね。 本当に、気味が悪いくらい、親切ですね。
クレア……?
ベータ……すごい、賑やかですね。 村の人総出で迎えてくれるなんて。
ゼータそう……だといいけどね。
クレアなんでそんな不吉なことを……。 気が張ってるのは分かるけど、休んだ方がいいわ。
ゼータ傷はリリ様に治していただいたから問題ないよ。
リリいえ、リリは傷は治せても、 体力やすり減った心までは治せませんから。
リリおふたりもクレアさんの言うとおり、 しっかり食べて休まれてください。
リリほら、この村特産の木の実ジュースも、 甘い香りがして美味しそうですよ。
フレイヤリリ。
リリあ、はい。なんでしょうか?
フレイヤ村の子どもが熱を出したみたいなんです。 申し訳ないですが、診て貰えないですか?
リリえ、それは大変! すぐいきます!
フレイヤ入り口から2番目の民家です。 お願いします。
リリはい!
オリヴィエ……おい、あそこは空き家だったろ。
フレイヤオリヴィエ。
オリヴィエ…………分かったよ。
村人Aみなさん、お楽しみ頂いてますか?
フレイヤはい。おかげさまで。
村人Aおつかれでしょうから、ゆっくりされてくださいね。 特に木の実ジュースはこの村の特産でして。
村人Aもうお飲みになりましたか?
フレイヤはい。ねえ、オリヴィエ。
オリヴィエえ? ああ。さっき飲んだけど別に……。
オリヴィエ…………。
オリヴィエ……いや、そうだな。 今、効いてきたよ。
オリヴィエここでしか飲めない、特別なものみたいだな。
クレア――ぐ……あ……。
クレアな、何……? 急に喉と胃が……熱く……。
クレアい……息が……。
村人Aど、どうなってるんだ……。 一体、どうして……。
村人Aどうして、他の奴は平気なんだ!?
フレイヤわたくしは飲んだ振りです。 おそらくそこのふたりも。
ベータこうなる気はしていましたから。
ゼータ残念だけどね。
村人Aそっちの女は飲んだって言ってたぞ!
オリヴィエ飲んだよ。だから言っただろ。 ここでしか飲めない特別なものだって。
オリヴィエ毒入りの飲み物なんて、珍しいからな。
クレア毒……。
村人A巨大イノシシすら無効化する毒だぞ! それに、そっちの女は見捨てるのか!?
フレイヤいえ、そうはならないかと。 なぜなら……。
リリクレアさん! 
リリ大丈夫ですか!? 今解毒しますからね!
リリ毒が仕込まれていること、知っていたんですね! どうしてこんな酷いこと!
フレイヤここに来るまでに、吸血鬼たちと散々戦いましたよね?
フレイヤ吸血鬼の通り道である場所に、 こんな平和な村があること自体、おかしいと思いませんか?
リリそれは………。
フレイヤこの村は吸血鬼と取引をしています。 ……いえ、というより、信望している、でしょうか。
フレイヤ定期的に村の人間や旅人を餌として差し出すことで、 村そのものは襲われないのです。
フレイヤ要するに、吸血鬼の犬です。 放っておけば、わたくしたちの情報が筒抜けになっていました。
リリそ、それを確定させるために、 クレアさんに毒を飲ませたんですか?
フレイヤ飲むかも知れないとは思っていましたが、 飲ませたわけではありません。
フレイヤ実際、ベータとゼータは感づいて口をつけていません。 気づけなかったのは、彼女の落ち度です。
フレイヤどちらにしても、リリが無事なら問題ありません。 だからあなただけは事前に退避させました。
村人Aく、くおおおおっ! おい、お前ら!!!!
村人A全員で囲んで叩くぞ! すぐにゲキツヨン様の手下がやってくる! それまでの辛抱だ!
サラサ来ませんよお、残念ですけど。
村人Aえっ……?
サラサ密告しようと村を飛びだした男は、 処理しておきました。
村人Bう……あ……そんな……。
ゼータやっぱり……見張るって言うのは吸血鬼じゃなくて、 村人を見張るって意味だったのか。
フレイヤサラサ、これで全員ですか?
サラサうん、みんなこの場にいるよお。 隠れてる人もいないみたい。
フレイヤそうですか。子どもがいた形跡もあったのですが、 いないということは、吸血鬼に捧げましたね。
フレイヤ……この、クズ共め。 ひとりとして生かさん。
村人Bひっ……!
村人Aひ、怯むなー!!!! 全員捕まえて、ゲキツヨン様に献上するのだー!!!!
フレイヤ……終わりましたね。 念のため、生き残りがいないか確認しましょう。
リリクレアさん、大丈夫ですか?
クレア……ええ、なんとか。 ありがとう、助かったわ。
クレアけど、こんなやり方……。
フレイヤ気づけなかったのはあなたの弱さ。 毒に対抗できなかったのも、あなたの弱さ。
フレイヤどのみち、ここでやられるようでは、 熾烈になる吸血鬼やディアボロスとの戦いについてこられない。
フレイヤあなたにとっても、 自分を見つめ直す良い機会になったのでは?
クレアそ、それは……。
フレイヤ良かったですね、リリがいて。 本番は、常に彼女が傍にいるとは限りませんよ。
クレア…………。
リリクレアさん……。
ベータ(たしかに、こんな場所に平和な村があることは、  私も怪しいとは感じていました)
ベータ(フレイヤさんも、そんなことは初めから承知で、  きっとあらゆる可能性を考えていたはずです)
ベータ(……これが三英雄の知将。  合理的で……冷酷)
ゼータ……ベータ。大丈夫?
ベータ(ああ……シャドウ様、私には分かりません。  この行いが、正しいことなのかどうか)
ベータ(だって、私にとっての正しさというのは、  シャドウ様、あなたでしたから)
ベータ(だから、シャドウ様のいない、今の私は……)
村人Cっ、死ねえええええ!!!
ベータ……っ!?
ベータあ……しまっ……。
村人Cあ……ぐ……クソ……。 申し訳ございません、ゲキツヨン様……。
サラサまだ息があったみたいね。 殺したと思ったのに、すごい執念。
ベータ………………。
ゼータベータ……。
ベータ攻撃に対して、反撃するのは当然です。 生かしておけば、禍根を残すでしょうし……。
ベータ今のは、正しい判断……です。

Episode 5

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
アルファ……時間ね。 東組も到着しているはずよ。
イータうう……もう疲れた……。 帰っていい?
アルファいいわけないでしょ。 これから突入するってときに。
アルファこれより西側の入口から中へ入り、 拠点内の吸血鬼を殲滅します。
アルファ全員、突入!
アルファ(奇襲の成功で攻略は順調ね。  油断はできないけど、制圧完了は近いわ)
イプシロンアルファ様、ご無事ですか?
アルファええ。私は大丈夫。 まだ制圧が済んでいない地点のサポートに入って。
イプシロン了解です!
ルージュアルファ。周辺の吸血鬼が減ったし、 奥を偵察してきてもいいか?
アルファ……ええ、任せるわ。 何かあったらすぐに戻ってきて。
ルージュ了解。
アルファ(ノンナとルージュ……さすがにオリヴィエには負けるけど、  かなり優秀な部類だわ)
559はあああっ!
アルファ(イプシロンはもちろん、559の動きも悪くない)
イータ私は……離れて見てるね……。
アルファ(問題は――)
アレクシアくっ! っ……はああああっ!!
アルファ(オリヴィエとの一件が尾を引いているのかしら)
アルファ(心配だけれど、手を出すのは無粋。  今は見守った方がよさそうね)
アルファ東組は大丈夫かしら……。
ノンナ向こうに行ったお仲間の心配? ベータとゼータだっけ。
アルファそうね。数日間も一緒に過ごすには、 癖の強い人たちだもの。
ノンナあはっ、言えてる。 オリヴィエとか、謎多き人物だよね。
アルファあなたも詳しく知らないの?
ノンナ出会った時からあんな感じだから。 昔は違ったって話は聞くけどね。
アルファそうなの?
ノンナ正義感が強くて、 まっすぐな性格だったらしい。
アルファその話が本当なら、 性格が変わるような何かがあったってこと?
ノンナ家族を吸血鬼に殺された。
アルファえ……。
ノンナオリヴィエが組織に来たのは、そのあとのことらしい。 そこで細胞に適合して才能に目覚めたんだと。
ノンナでも、その時点で強くなっても、もう遅いよね。 家族は死んじゃってるんだし。
ノンナこれは私の想像だけど…… オリヴィエは、戦う理由が見つからないんだと思う。
アルファあなたの想像が事実なら厄介なものね。 大事なものが過去にある人は、なかなか変われないのだから。
ノンナ達観してるね。 アルファみたいな人は、意外と合うかもしれないよ。
アルファ……オリヴィエと?
ノンナ彼女ともだし、リリやフレイヤともね。
ノンナリリは生まれた時から組織にいて、組織に育てられた。 きっと途中で入った人間にはわからない、 つらいこともあったと思う。
ノンナそれでも彼女は他人にあたったりしない。 反対に、みんなを励ましてる。 誰かがリリを、聖母って呼んでた。彼女にピッタリだ。
アルファ聖母ね……。
ノンナフレイヤもそうだよ。 厳しくて融通が利かないところはあるけど、 彼女の指示には迷いがない。
ノンナ実は誰よりも仲間想いなんだろうね。 だから……仲間を守るために厳しくなったのかもしれない。
アルファ全部あなたの推測よ。
ノンナそうだよ。彼女たちを信頼する仲間の、推測だ。 そこそこ芯を食ってると思うけどねえ――
アルファ今のは……。
ルージュアルファ。この周辺に目立った吸血鬼はいない。 それから、姿は確認できなかったけど、 どうやら東組も無事に突入して、戦っているみたい。
アルファそう。良かったわ――
アレクシアくっ!!
ルージュっ!? アレクシア……!?
ノンナまあ、待ちなって。
ルージュアレクシアが押されて苦しんでる! 助けないと!
ノンナ助けられるほうが苦しいこともあるんだよ。
ルージュえ……? どういう……。
アレクシアはああああっ!!
ルージュ………………。
ノンナあれが、押されて今にも死にそうな目に見える?
ルージュ……いや。 異様な執念すら感じる……。
ノンナ彼女はまだ、戦ってる。
ノンナそれを外野が勝手に、助けなきゃなんて思って、 余計な手出しをしたら?
ルージュ……分かった。 もう少し見守ることにする。
ノンナそれがいいよ。 アレクシアに刺されたくなかったらね。
アルファ……ねえ、もしかしてだけれど、 あなたたち付き合いは長いの?
ノンナああ、そうだよ。よく分かったね。
ノンナ私たちは西国の出身。 流浪の旅人として、この国へやって来たんだ。
ノンナ旅をしながらたくさんの吸血鬼を葬ってきた。 ルージュは腕が立つからね。 組んだ時からずっと頼りっぱなしだよ。
ノンナルージュがいなかったら生きていけない。 大げさじゃなく、そう思ってるよ。
ルージュっ! ま、またすぐ、 調子いいことを……。
ルージュそんなこと言われたら、私は……。
アルファ(もしかして、ルージュはノンナを……  なんて、私が考えることじゃないわね)

Episode 6

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
アレクシアっ、はあああっ!!
アレクシアくっ、う……!
アルファ(手を出さずにいたけど、王女はそろそろ限界みたい。  しかたないわね――)
アレクシア……え?
アルファ下がりなさい。 これ以上は危険よ。
アレクシア何を……!? っ、邪魔しないで!
アレクシア私は……私は…… 証明しないと、いけないのよ……! 彼の剣を……私の剣を……否定なんてさせない……っ!
ルージュ無茶をしてはいけない。
アレクシアルージュ……。
ルージュ命を落としてしまえば、自分の剣がどうなんて言えなくなる。 未来のことを考えるべきだ。
ルージュあなたの剣には、 ここに至るまでに経験した、多くの苦労が見える。
ルージュ傷つき、苦しみ…… それでもなお進もうとする、立派な『持たざる者の剣』だ。
アレクシア……なんですって?
アレクシア立派……? 天才の剣の前に、呆気なく敗れ…… 有象無象の吸血鬼にすら、押される、剣が……?
ルージュアレクシア?
アレクシア……知ったようなこと、言わないで。
ノンナルージュ!
ルージュっ!
アレクシアいいわ……見せてあげる! 証明してあげる! 私の剣が、誰よりも強いってことを!
アレクシアああああああああ!
アレクシア邪魔よ。
アルファ(吸血鬼を一撃で……  どうして、彼女がこの姿に……!?)
イータうーん、なんだかやばそう……? もうちょっと離れてようかな……。
ノンナまたこの変身……。 未来人の特殊能力なのかな。
559そんなわけあるか。 こんなの、元の世界でも見たことない。
イプシロンむしろ禍々しい……そう、魔人ディアボロスのような……。 制御出来ない力に取り込まれ、我を失っているみたい。
アルファ魔人化。
イプシロンえっ。
アルファまるで魔人ディアボロスのような、凶暴さ。 制御を失い、理性をなくして暴れ回るこの現象……。
アルファ魔人化、としかいいようがないわね……。
アレクシアふふふ、見たかしら?
アレクシア努力と研鑽によって、持たざる者の剣は最強の剣になった! 私は彼を……シャドウを越えたのよ!
イプシロンシャドウ様を越えたなんて、 そんなわけないでしょ!
アレクシア証明してあげる。 でもねえ、あなたごとき、駄犬ではダメよ。 シャドウを出しなさい!!
イプシロンっ!? く……!
アレクシアあはっ! ほら右ィ! 次は左ィ! さあさあ、必死に避けないと、首が飛ぶわよぉ!
アルファイプシロン、退きなさい!
イプシロンアルファ様……!
アレクシアシャドウ! シャドウ!! 出てきなさい!!
アルファ(シャドウは死んでしまった。  それは彼女も知っているはずなのに……!)
559アルファ様! サポートします――
アルファ来るな!
559っ!!
アルファあなたの手には負えないわ! 下がっていなさい!
559し、しかし――
アレクシアシャドウ!!
アルファくっ!!
アルファ(彼女の剣……たしかにシャドウに似てるわ)
アルファ(力づくで止めるしかないけど……  手加減ができるような相手じゃない!)
アレクシアシャドウ! いつまで隠れている気!? あなたがそのつもりなら……いいわ! 仲間を皆殺しにしてあげる!
アレクシアそうすれば、あなたも出てくるでしょう?
アルファまずい……! みんな、逃げ――
アレクシアはああああっ!!
アルファ(壁が……崩れる……!)
ルージュノンナっ!! 危ない!!
ノンナな……!
ノンナルージュ……?
アルファ土煙で前が見えない……イプシロン、559!
イプシロンはい、無事です! 559も一緒にいます!
559はい! 負傷もしていません!
アルファイータは!?
イータ無事……。 避難してて、正解だった……。
アルファノンナ、ルージュ!
ノンナあ……アルファ! ルージュが、ルージュが崩壊に巻き込まれた!
アルファっ!
ノンナ瓦礫の下敷きになってる……! た、助けないと……!
アルファこの瓦礫の中から……。
アルファノンナ、落ちついて。 あなたもわかっているはずよ。
ノンナそれは……でも……!
アルファノンナ。
ノンナ……わかった。
アルファ……一旦、離脱するだけよ。 ルージュの安否はわからないわ。 諦めないで。
ノンナ……ありがとう。
アルファいいのよ。 さ、急ぎましょう。

Episode 7

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
シャドウ………………。
ベータシャドウ様? どうかなさったのですか? なんだか、難しい顔をされています……。
シャドウ人間は愚かな生き物だ。
ベータえ?
シャドウシャドウ様キングダムが覇権を獲り、 より良い世界となった。 だがそれを理解しない者がいる。
ベータまさか…… シャドウ様キングダムの崩壊を目論む、 反抗勢力が現れたのですか!?
シャドウああ。 我が首を狙っているらしい。
ベータなんて愚かな……! シャドウ様に逆らうなんて許せません。 見つけ次第、排除しましょう。
ベータシャドウ様のためなら、私――
ゼータベータ。
ベータっ!?
ゼータえ、何? なんで驚いてるの?
ベータ……いえ、なんでもありません。 みなさん、戻って来たんですね。
フレイヤこれでひとまず東側の制圧は完了です。
フレイヤ西側のアルファさんたちと合流する前に、 少し休憩を取りましょう。
リリみなさん、お水をどうぞ! 怪我をしている人がいたら言ってください。 リリが治療しますので!
リリオリヴィエさん、怪我はありませんか?
オリヴィエない。 自分よりもあいつを見てやれ。
クレア………………。
リリえ!? クレアさん、怪我を!?
クレア……たいしたことないわ。 オリヴィエが前に出てくれたから、軽傷よ。
ゼータ軽傷、ねえ……。
クレア何よ?
ゼータ替えの服に着替えてるし、 少なくとも服はダメになったんだろうなあって。 切り裂かれた? それとも返り血?
クレア……両方よ。 替えの服があって良かったわ。 まあ、1着は台なしになったのは残念だけど。
サラサこの時代の服、気に入ってくれて嬉しいわあ。
クレアこの格好をしていれば周囲に溶け込むことができるしね。
サラサうんうん。とってもお似合いよお。 クレアさん、かわいい。
クレアかわいい……は置いておいて。 見た目だけではなく、機能的な服よね。
ベータ分かります。 とっても、かわいいデザインですよね。
クレアだから、かわいいとかそういう問題じゃ……。
ベータいえ。毎日身につけるものですし、 シャドウ様に好意的に見てもらいたいですし。
ベータ大事な問題ですよ。
クレア好意的って……。 というか、シャドウは――
フレイヤ誰!?
吸血鬼あ……。
オリヴィエ生き残りがいたのか。
フレイヤオリヴィエが気づかないだなんて、 気配を消すのがとてもお上手なんですね。
吸血鬼ま、待ってくれ! 戦うつもりはない、降参する!
オリヴィエ命乞いは無駄だ。 一瞬で終わる。
吸血鬼ひっ!
リリあの、戦意はないようですが……。
フレイヤいつも言ってますよね。 嘘かもしれないし、本当だとしても心変わりするかもしれない。
フレイヤ何にしても、生かしておくメリットはない、って。
リリそれは……はい。 分かりました。
吸血鬼がはっ……。
オリヴィエん?
フレイヤ……え?
リリなんで、ベータさん……?
ベータシャドウ様のためですから。 やるべきことはやらないといけません。
ゼータだからって、急に…… まさかベータが手にかけるとは思わなかった。
ベータ急にではありませんよ。 私たちはずっと、シャドウ様のために動いています。
ゼータそれはそうだけど……。
フレイヤなんにしても、よくやってくれました。
リリ………………。
フレイヤあなたのような優秀な人材がこちらにいて、 アルファたちは大丈夫でしょうか?
フレイヤあちらにはノンナとルージュがいますけど、 戦力的にはこちらより劣っていますよね。
ゼータ無用の心配だね。 アルファ様がいれば問題ない。
オリヴィエそんなに信用できるのか?
ゼータまあね。 ……何か問題が?
オリヴィエ別に。
オリヴィエただ、アルファが強いのは認めるが、 それより強い……シャドウだったか。
オリヴィエ彼は、ディアボロスに負けて死んだんだ。 過信はするなよ。
ベータ……は? シャドウ様が、死んだ……?

Episode 8

アレクシアシャドウ! 早く出てきなさい!!
アルファ(この場所に隠れていたら、  いずれ見つかってしまうわ)
アルファもっと奥へ移動しましょう。
ノンナここは……。
559激戦のあとか? 半壊している。
イータけほ……ここ、喉痛い……。
イプシロンこうも瓦礫だらけだと、 足の踏み場もありませんね……。
アルファ待って。 人の気配がするわ……。
ベータあれ? その声はもしかして、アルファ様ですか?
アルファベータ? あなたどこにいるの?
ベータちょっと待ってください。 瓦礫が邪魔をして、出れなくて……!
ベータそれよりも、アルファ様! 良かった、無事だったんですね。
アルファ無事ではあるけれど、 問題がないとは言えない状況よ。
アルファそちらは大丈夫なの? 崩壊具合からして、苦戦したのかしら?
ベータいえ、そうでもありませんよ。 東組は突入したあと、 迅速に吸血鬼を倒して制圧していきました。
ベータ大きな被害が出ることもなく、 アルファ様たちと合流するところでした。
アルファそれじゃ、この瓦礫の山は?
ベータそれは……シャドウ様が死んだなんて、 失礼なことを言う逆賊が現れたからです。
アルファ……え?
ベータだけどご安心ください。 すでにシャドウ様と一緒に、殲滅しましたから。
アルファベータ、あなた、何を……。
アルファシャドウは……死んだのよ?
イプシロンお、オリヴィエ!?
ノンナ酷い怪我……一体、何が……。
アルファオリヴィエ?
オリヴィエ……逃げろ、アルファ。 そいつは、もう……。
アルファ……もしかして。
ベータ逆賊、みーつけた。
アルファがはっ!?
アルファ……ベータ、あなた……。
©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン

Episode 9

アレクシアシャドウ! 早く出てきなさい!!
アルファ(っ、時間が戻った……!  不可逆の懐中時計が発動したのね)
アルファ(でも――)
アレクシア犬の分際で私の邪魔をしているのね! 首を刎ね飛ばしてやらないと!
アルファ(時間軸が戻った地点で、  アレクシア王女はもうすでに魔人化している……)
アルファ(つまり、もう、彼女を救う方法は……)
アルファ(だけど……ベータはまだ、間に合うかもしれない。  今すぐ東組のほうへ向かえば――)
アレクシアシャドウを出しなさい!!
アルファみんな、聞いて。 このまま隠れていてもいずれ見つかるわ。 移動して、東組と合流しましょう。
イータうーん……敵の目を盗んでの移動は、 かなり厳しい気が……。
アルファそれは……。
アルファ(確かにイータの言う通りだわ。  でも、今ならまだベータの魔人化を、  防ぐことができるかもしれない)
559アルファ様。
559私がしんがりを務めます。 どうぞ先に行かれてください。
イプシロンこの状況のしんがりって、 どういう意味かわかってる?
アルファ魔人化したアレクシア王女の力は、 ひとりでどうにかできるレベルではないのよ。
559覚悟の上です。 ご安心ください。
559それに彼女は、また大暴れして周囲を破壊するでしょう。 建物の崩壊に紛れて上手く離脱します。 どうぞ、お任せください。
アルファそういうわけにはいかないわ。 隙を見て、一緒に脱出しましょう。
アルファ……分かったわ。 お願い出来るかしら?

Episode 10

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
559ここはお任せください。
559私も機を見て離脱しますので。 さあ、お早く。
アルファ(心配だけど、今は彼女を信じて、  ベータのところへ急がないといけないわ)
アルファ559、よろしくね。 くれぐれも無理はしないで。
559はい――
アルファ(お願い、間に合って!)
アルファベータ!
ベータシャドウ様は死んでなんかいない!!
ベータっ、ああああ……っ!!
イプシロンベータ!? あなた――
アルファイプシロン! 今ならまだ間に合うわ! 援護して!
イプシロンえ? あっ、はい!
ベータシャドウ様が死んだなんて妄言を吹聴して、 王国に混乱をもたらそうとしているんでしょう!?
ベータそんなの絶対に許せませ……なっ!?
アルファ落ちつきなさい、ベータ!
ベータアルファ様……!? どうして邪魔をするんですか!?
アルファ邪魔をしているわけじゃない。 あなたを止めようとしているの。
ベータそんなっ! どうして……そこに逆賊がいるのに!
フレイヤまさか、また……。
アルファええ。戻ってきたわ。
アルファ前回、ベータは完全に魔人化して、 あなたたちは全員やられていたの。
アルファだけど、今回は……!
ベータあああっ! シャドウ様! 来てくださったのですね!
イプシロンえっ……シャドウ様!?
アルファ嘘……。
サラサがはっ……!?
フレイヤサラサ!
オリヴィエ……違う。これはシャドウじゃない。
オリヴィエ実態のない、幻影のようなもの。 ……ただの魔力の塊だ。
アルファ幻影……? ベータ……あなたが?
ベータ違いますよ、アルファ様。 そこにいらっしゃるのは本物のシャドウ様です。
ベータシャドウ様キングダムを興して、 一緒に世界を統治しているんです。
アルファベータ……。
アルファごめんなさい。あなたに負担をかけすぎたのかしら。 私がついていながら……。
アルファ何があったの? あなたは何を感じて、何が苦しかったの?
アルファ知らなくてごめんなさい。 だけど知りたいから、全部教えて欲しいの。
ベータそれは――
ベータアルファ様……私、たくさん戦いました。 シャドウ様のために……。
アルファええ、そうね……。
ベータ殺す必要がなかったかもしれない人間も、 手にかけました。
ベータだけど、それが正しいのか分からなくて……。 だって、私の正しさはシャドウ様だったから。
ベータシャドウ様がいないと……よくやったベータって 褒めてもらわないと、私は……。
ベータ私は……本当にこれでいいのかって、不安で……。
アルファ……そう。戦うことが嫌いなあなたが、 そんなことを……。
ベータシャドウ様……ああ……分かっています。 逆賊は、皆殺しです。
ベータあなたのためなら、私はどんなことでも……!
オリヴィエくっ……! この影……!
アルファベータ……。
ベータがはっ!
イプシロンアルファ様!?
アルファベータ、ごめんなさい。 つらい思いをさせたわね。
ベータぐ……あっ……。
アルファ私が、私が、気づけていたら……。
アルファ……次は、必ず救う。 だから、今は……。
フレイヤ幻影が消えましたね。
オリヴィエ発動者が死ねば消えるのか。
リリベータさん、どうか、安らかに……。
オリヴィエだが、これで……。
オリヴィエ……いや。 一段落、とはいかないみたいだな。
アルファっ!?
アレクシアあはっ! 犬が増えてる!
アレクシアここにいる全員を倒せば、 さすがのシャドウも隠れていられないでしょう? さあっ、出てきなさい!
オリヴィエ闇に飲まれたか。 面倒ごとを増やしやがって。
アレクシアあんたは……あはっ! あんたにも恨みがあるし、シャドウの前にサクッとやっとく!?
オリヴィエくっ……。力も速さも、以前とは別人だな。
オリヴィエだが!
アレクシアっ!?
オリヴィエ見くびるな。お前程度なら、 例え化け物じみた力を手に入れても……。
アレクシアうぐっ!?
オリヴィエ負けはせん!
アレクシアこんの……ホント、むかつく。
アレクシアはああああっ!!
オリヴィエぐっ、あっ……!
リリオリヴィエさん! すぐに治します!
オリヴィエっ、来るな!
アルファ(あのオリヴィエが……このままじゃ、また……)
アレクシアあんたもよ。
アルファえ――
アレクシア遺体を抱えて剣すら抜かないなんて、ナメてるの? 戦う気がないなら、さっさと死になさい。
アルファしまっ――がはっ!?
アレクシア全員、首を刎ねてやる。
アルファ(これは……マズイ、かも……)
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Episode 11

アルファああなってしまったら、 あなたひとりの手には負えない。
アルファ全員で対処して、 隙を見て全員で離脱するのよ。
559アルファ様……はい。 足を引っ張らないように努めます――
559っ!
アレクシア見つけた。 こんなところに隠れていたのね。
アレクシアタロー、ジロー、ハチ、ペス! ……と、その他! そこに並んで首を差し出しなさい!
アルファ時間がない。すぐ終わらせるわ。
アレクシアふふふ、躾がなってないわね。 牙を剥く犬は……首を刎ねてあげる!
559っ!! く!?
イプシロン559!
559だい、じょうぶ……ですっ!
アレクシアやり返してくるなんて生意気ね!!
559ぐっ!
アレクシア芸でも披露する? 私が気に入ればペットにしてあげるわよ?
559冗談じゃない! 誰がっ――
アレクシアそう。 しつこいのね。
559が、は……。
アルファ559!!
559っ、く……!
アレクシアちょっと、どういうつもり? 汚い手で触らないで!
アレクシア私が会いたいのはシャドウだけ! あんたには用はない!
アレクシア切り刻まれて、絶命する寸前で、 地べたに倒れ込みながら私にすがる。
アレクシアそんなシャドウが見たいの! 早くシャドウを出しなさい!
559ぐあっ!?
559アルファ、様!! 行って、ください……!
アルファあなた、本気で……!?
559早くっ!!
ノンナアルファ、行こう! 彼女の覚悟を無駄にしてはいけない!
アルファっ……ありがとう。
アルファ(ついたわ。  ベータたちがいるのは、この奥の――)
アルファ……!?
ベータああっ、シャドウ様、何を! そのような虫けらの始末はベータにお任せを! 剣をお納めください!
ベータシャドウ様キングダムの崩壊を目論む逆賊め! ひとり残らず処断します!!
イータベータ……暴れてる……。
イプシロンア、アルファ様、あれは……!?
アルファベータ…… 間に合わなかったのね……。
イプシロン間に合わなかったって…… もしかして、未来から戻ってこられたんですか!?
アルファそうよ。 だから急いでベータのところへ来たけど、遅かった…… あの子の魔人化を、私は止められなかったのね――
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Episode 12

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
アレクシアシャドウ! 早く出てきなさい!!
アルファっ、は……!
ノンナアルファ、どうした?
アルファまた、ここへ戻って来たのね……。
ノンナまた?
アルファアーティファクトが、 不可逆の懐中時計が発動した……。
アルファこの拠点に突入してからは、 もう2度、戻っているわ。
イータ……何があったの?
アルファ(説明している時間は……前回以上にない。  全力で向かっても、ベータの魔人化には間に合わない)
アルファ(どうすれば……)
アレクシア見つけた。 こんなところに隠れていたのね。
アレクシアタロー、ジロー、ハチ、ペス! ……と、その他! そこに並んで首を差し出しなさい!
ノンナ見つかった……!
559アルファ様たちはお逃げください。 ここは、私が足止めを――
アルファダメよ。 その結果がどうなるかは、もうわかっているの。
559アルファ様……?
イプシロンもしかして……戻って来られたのですか?
アレクシア何? 死にたくないの? だったらシャドウを出しなさい! 私が用があるのはあの男だけよ!
アルファ(考えて……)
アルファ(私たちが全力でベータのところに向かっても、  絶対に間に合わない)
アルファ(それに最後は、  あとから来たアレクシア王女に殺されるはず)
アルファ(どうすれば……)
アルファ……本当に、見逃してくれるの?
イプシロンアルファ様!?
アレクシアええ、もちろんよ。 ようやくシャドウの居場所を白状する気になったのね。
アルファ気づいたのよ。シャドウをあなたと会わせたところで、 シャドウが負けるはずない、ってね。
アレクシア……は?
アルファ信じられないようね。
アレクシア当たり前じゃない。 私は最強に至ったの。
アレクシアシャドウごときに、負けるはずがない。 適当なこと言ってると……殺すわよ?
アルファだったら、試してみなさい。 シャドウはこの先の通路を抜けた場所にいるわ。
アレクシア……いいわ。シャドウを倒したあとで、 あなたたちとも遊んであげる。
559アルファ様、どういう……。
アルファもうすぐ、ベータも魔人化に飲まれるところよ。
559そうなのですか!?
アルファだけど、今から全力で向かっても間に合わない。 ベータは、複数のシャドウの幻影を操って、攻撃してくる。
アルファ一方でアレクシア王女はすでに魔人化している。 そして、シャドウに異常なまでに執着している。
アルファこれらが、私が未来で得た情報よ。
アルファ魔人化したふたりを相手取っても勝ち目はない。 ……ふたりどころか、ひとりでもね。
アルファだったら、相打ちさせるしかないわ。
アルファアレクシア王女がシャドウに執着しているのなら、 引き合わせて相打ちさせればいい。
アルファベータが作り出す、無数のシャドウの幻影にね。
559な、なるほど……。 そこまでお考えなのですね……。
アルファ相打ちになったふたりを制圧。 その後に探すのよ、魔人化を解除する方法を。
イプシロンアルファ様……。
アルファもっと具体的に、これまでに何があったのかは、 道すがら説明するわ。
アルファ(次は必ず救うと、ベータと約束したのに、  こんな、問題を先延ばしにすることしかできないなんて)
アルファ私は……無力ね。

Episode 13

フレイヤあなたのような優秀な人材がこちらにいて、 アルファたちは大丈夫でしょうか?
フレイヤあちらにはノンナとルージュがいますけど、 戦力的にはこちらより劣っていますよね。
ゼータ無用の心配だね。 アルファ様がいれば問題ない。
オリヴィエそんなに信用できるのか?
ゼータまあね。 ……何か問題が?
オリヴィエ別に。
オリヴィエただ、アルファが強いのは認めるが、 それより強い……シャドウだったか。
オリヴィエ彼は、ディアボロスに負けて死んだんだ。 過信はするなよ。
ベータ……は?
ベータシャドウ様が……死んだ?
シャドウ……逆賊が、見つかったようだな。
シャドウ我が、出よう。
ベータあ……あ……あ……。
クレアベータ?
ベータああっ、シャドウ様!! ああああああああっ!!
ゼータベータ……!? そんな、どうして……!
フレイヤくっ!?
オリヴィエフレイヤ、下がれ。
ベータ逆賊が……逆賊がたくさん!
オリヴィエくっ!
リリオリヴィエさん!?
オリヴィエさすがに手強いか。 だが……はあっ!
ベータああ、シャドウ様! なんて美しい剣筋なのでしょう!
ベータ強いだけではなく、思わず見惚れるような……。 それでこそ、私の王です!
ゼータな、何言ってるんだよ。 シャドウなんてどこにも……。
ゼータぐっ!?
ベータ……は? ゼータ、あなたまで何を言っているんですか? シャドウ様はご健在です!
ベータまさか、反抗勢力に取り込まれてしまった……? ああ、そんな…… どうしましょう、シャドウ様……!
ゼータ……は? 主? しかも……複数?
オリヴィエ惑わされるな。 これは幻影だ!
ゼータうっ!!
ベータゼータ! シャドウ様が怒っていらっしゃいますよ! 早く平伏して謝ってください!
ゼータぐはっ! 実体がないのに……重い!
ベータよくもシャドウ様キングダムの崩壊を目論みましたね! その愚かな野望もここまでです!
オリヴィエゼータ! 助太刀する余裕はない! そっちは自分でどうにかしろ!
ゼータ自分でって…… 幻影とはいえ、主相手に私がどこまで――
ゼータがはっ……!
リリゼータさん!
サラサリリちゃん! わたしとクレアさんで時間を稼ぐわ。 その間にゼータさんの治療と回復を!
リリは、はい!
クレアもし、本物並の実力だったら……。
サラサだったら?
クレア稼げる時間は、ほとんどないわ。
サラサ……でも、やるしかないのよねえ。 このままじゃ、全滅しちゃうって思うから。
アレクシアシャーードウ!!!
アレクシアあはっ、見ィつけた! しかも、たくさん!
クレアアレクシア、王女……!? なんで、どうして、その姿に……!?
アレクシアシャドウ! あなたを倒すために探していたの。 ここでその首を落としてあげるわ!
ベータ……首? シャドウ様の首を狙う……反抗勢力……?
ベータああああっ!! あなたも敵なんですね! シャドウ様を狙う不届き者!
アレクシア何? うるさいわね。 あなたに用はないんだけど。
オリヴィエこれは、いったい……?
アルファ無事に出会ったようね。
ゼータえ……アルファ様……?

Episode 14

©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン
アレクシアシャドウ、あんたを殺して証明するわ! この私の剣が最強だってことを!
アレクシアあはっ! ほーら、死んじゃった!
ベータ何を言っているのか理解に苦しみます。 シャドウ様がやられるはずないでしょう?
ベータああっ、なんて凛々しいお姿……! シャドウ様キングダムの民は、なんて幸せなのでしょうか!
アレクシアふん! 一度越えてしまえば、あとは何度だって倒せるわ! はああっ!!
ベータシャドウ様!!
アレクシアふふふ、ほらね!
ベータさすがシャドウ様。 やられたと見せかけて増殖し、相手の心を折る作戦ですね!
アレクシアなんですって!? いいわ……何回だって倒してあげる!
オリヴィエ……何も言えないな。
ゼータベータが出現させた幻影のシャドウを、 アレクシア王女が次々に消していってる…… どんな光景だよこれは。
アルファ幻影も含めたあの3人……誰をとっても、そう。 私たちが数人がかりで飛びかかっても、 相手にならなかったものね。
フレイヤだからこそ、これは好機です。
フレイヤ彼女たちが戦っている間に、 わたくしたちは脱出しましょう。
クレアふたりを置いていくの?
フレイヤ他にいい案がありますか?
クレアそれは……。
アルファ置いていく気はないわ。 相打ちになったところを押さえるの。
アルファだけど、ここに居続けても巻き込まれるだけ。 一時的に離れましょう。
クレア……分かったわ。
フレイヤ………………。
フレイヤ――この道も行き止まりのようですね。
ゼータまさか侵入してきた経路が崩落してるとはね……。
イプシロンアレクシア王女が散々暴れた影響かしら。
サラサ逃げた吸血鬼が、 追っ手を撒くために破壊した可能性もあるわねえ。
ベータ見つけました。
アルファ……っ!? ベータ……!
ベータシャドウ様に反抗する勢力を、 みすみす逃すわけにはいきません。 彼の隣に立つ王妃として、処理します。
イプシロン王妃……? 何を言ってるのか全然わからないわ。 いい加減、正気に戻りなさいよ!
ベータ正気? それはこちらのセリフです。 何故、あなたたちがそちらに与しているんですか? 何故、シャドウ様キングダムの平和を脅かそうとするんですか!?
イプシロンっ、全然話が通じないんだから……!
オリヴィエあの男の幻影はいないようだな。
イータ幻影は、王女と戦ってる……。 疲弊してるし、多分、もう出せない……。
オリヴィエ叩くなら、今か。
リリ待ってください。 ベータさんと戦わなくても、 説得をしてみるのはどうでしょう?
ゼータ……は? 説得?
リリはい! ベータさんはリリたちや、アルファさんたちが憎くて、 絶対に倒したいってわけではないみたいです。
リリだから、リリたちが、その……反抗勢力? そんなのじゃないって話せば、 戦うのをやめてくれると思うんです!
フレイヤベータは妄想と現実の区別がつかなくなっている、 話にならない相手を、どうやって説得するつもり?
リリえっと、は……話してみないと、 本当に通じないかわかりません!
リリ心を込めて話せば、きっと!
ゼータ………………。
オリヴィエそんな時間はない。 さっさと行け……っ!
リリそれは……できません!
オリヴィエだから、この状況が分かって――
リリ違います。オリヴィエさんを、 置いていけないと言ってるんです。
オリヴィエお前……。
フレイヤわたくしも、リリの考えに賛成です。 オリヴィエ、リリ、ここはふたりでお願い出来ますか?
フレイヤ負けなければ良くて、勝つ必要はないのですから、 死ななければよいのです。
フレイヤそしてリリがいる以上、オリヴィエは絶対に死なない。 逆にいうと、リリだけは死守してください。
リリはい! 任せてください!
オリヴィエ相変わらず非人道的なことを言う奴だな。 だがまあ、いいだろう。
フレイヤふたりを信頼してこそですよ。 よろしくお願いします。
©坂野杏梨・逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン

Episode 15

ゼータ(……リリ様、さっきベータを説得しようとしていたけど、  暴走した仲間の姿は散々見てきたはずだ)
ゼータ(出会ったばかりのベータを、あそこまで気にかけるなんて、  愛が深い……といえばそうかもしれないけど……)
ゼータ(少し幼い……印象もあるような……)
アルファみんな急いで。 脱出経路を探しましょう。
アルファオリヴィエとリリが稼いでくれる時間を、 無駄にはできないわ。
イプシロンアルファ様! 誰か来ます!
アルファあれは――
アレクシアはあ、はあ……シャドウは全員倒したわ…… っ、これで、私の剣が最強だって、 証明できた、でしょう……!?
クレアアレクシア王女……。
559チッ……間の悪い。
イプシロン見たところ、満身創痍……肩で息をしてるし、 体力もかなり消耗しているみたいね。
イータこれなら、私たちでも……。
ベータシャドウ様を倒したなんて、 またそんな妄言を吐くんですか!?
アルファベータまで!? オリヴィエとリリが、抑えててくれたはずじゃ……。
オリヴィエそのつもりだったんだが。
サラサよかった、オリヴィエちゃん、リリちゃん。 無事だったのね。
リリはい、なんとか。
オリヴィエ幻影を倒して、戻ってきたアレクシアが見えたんでな。 こっちまで誘導してきた。
フレイヤいい判断です。 ベータもアレクシアも、消耗しているようですから。
フレイヤあとは……。
アレクシアくっ! 妄言じゃないわ! 事実……よっ!!
ベータそんなはず、そんなはず、ありません! シャドウ様! シャドウ様!!
アレクシアほーら! 呼んでも出てこないじゃない!
ベータっ!!
アルファベータ……。
オリヴィエそろそろ、決着がつく。
ベータシャドウ様は…… 私たちを残して消えたりしない!
ベータそれが……どうして分からないのよおお!!!!
アレクシアぐはっ!?
サラサ……ベータさんもかなり消耗していたようですが、 それでも、彼女に分があったようですね。
ベータはあ、はあ…… シャドウ様を、愚弄する者に……トドメを――
アルファベータ。
ベータっ、アルファ様……? そこを、退いてください……。
アルファベータ……っ。
ベータ……っ、アルファ様…… は、離して……!
アルファよく頑張ったわね。
ベータ……え……。
アルファシャドウがいなくなって不安な時に、 負担をかけてしまって、ごめんなさい。
アルファあなたの気持ちに気づくことも、 寄り添うこともできなかった。
ベータ何、を……。 シャドウ様は、いなくなってなんか……。
アルファ好きでない戦いを、たくさんさせてしまった。 頼りすぎてしまったの。
アルファこんなあなたを見たら、シャドウは……。
アルファきっと褒めてくれるわ。 よくやった、さすがベータだって。
ベータ………………。
アルファだから――
ベータうっ……!
アルファゆっくり休んで。 おやすみ、ベータ。
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Episode 16

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イータ外に……出られた……。
アルファさすがに、もうダメかと思ったわね。
アルファ拠点は壊滅させることができたけど…… 失ったものも大きいわ。
イプシロンベータはまだ気絶したままです。 途中、意識が戻る様子もありませんでした。
ゼータだけど、リリ様が……。
リリううっ、ぐす……うう、ひぅ……ぐす、うっ…… ルージュさん……ルージュさん……!
フレイヤこのまま布に巻いて運びましょう。
ノンナ………………。
オリヴィエノンナ、運ぶのを代わろう。 拠点までは距離がある。交互に――
ノンナいや、いい。 私が、運ぶ。
オリヴィエだが……。
ノンナこうなった以上、私がルージュにしてあげられることは、 もう、そんなに多くない。
ノンナだから、ひとつも取りこぼしたくないんだよ。
オリヴィエ……そうか。
ゼータルージュは崩壊に巻き込まれたんだよね?
アルファええ。巻き込まれた地点あたりで、 遺体が見つかったわ。
アルファもはや誰だか分からないくらい、 ひどく損傷していたけどね。
リリううっ……ぐすっ……。 フレイヤさん、やっぱり私……。
フレイヤ言いましたよね、ダメです。
フレイヤいくらリリでも、 死んでしまった人間を治すことはできません。
フレイヤ例え姿形が元のルージュに戻っても、意味はない。 あなたが消耗してしまうだけ。
リリで、でも……だ、だってぇ……。
フレイヤそんなこと、ルージュも望んでいないのでは?
リリうぇぇん……ルージュさぁん……。
ノンナ……行こう。 早く、綺麗な姿に戻してあげたいんだ。 いつまでも血塗れの服なんて……。
サラサそうね…… 彼女のお気に入りの服を選んであげましょう。
リリぐすっ、うううっ、ひっく……。 すごく……優しくて……うっ、ごめんな、さい…… 泣いて、ばっかで……。
フレイヤ……気にしないで。私とオリヴィエは、死に慣れ過ぎている。 あなたの涙は、私たちの涙よ。
フレイヤ代わりに泣いてくれてありがとう、リリ。
アルファ………………。
アルファ(……三英雄。  伝説で聞いていたイメージとは、かなり違ったけど)
アルファ(オリヴィエ。  卓越した運動能力と剣の技巧)
アルファ(フレイヤ。  無慈悲なほどに、冷静且つ正確な指揮)
アルファ(リリ。  人間離れした、膨大な魔力量)
アルファ(まだまだ未熟なところが多いけど、  間違いなく、突出した能力をもっている)
アルファ(これから彼女たちが、伝説で語られる英雄になっていくのが……  なんだか、少しだけ楽しみだわ)
アルファベータとアレクシア王女も、 ガンマと同じ場所に幽閉しておきましょう。
ゼータ一緒でいいの? 目が覚めたら、またやり合うかもしれないよ? 今度はガンマも巻き込んで。
アルファその時は――
ユキメ………………。
イプシロンユキメ? 寝てるの? まさかあなた、見張りもしないで、ずっと眠って――
ゼータ待って。 眠ってるんじゃなくて、気絶してる。
アルファ……え?
559アルファ様?
アルファガンマが……。
ガンマ………………。
アルファ魔人化が……戻ってる?
謎の男Aふーん、こんなもんなんだ。 赤黒く濁っていたとしても、魔力は魔力だね。
謎の男Bまだまだ不可解なことは多い。 だが、すべての理はいずれ、赤き月の下に晒されるだろう。
謎の男Cですが努々、目を離しませんよう。 これまでの研究が、灰燼に帰す結果となるやもしれません。
謎の男Dふっふっふ……何にしても、 我らの崇高な目的へ、また近づいた。
謎の男D本当に、よくできた世界だな。

第三章に続く…

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