陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン「散りゆく陰への鎮魂歌」を文字で読みたい方のために文字起こしをしました!
どんなお話か気になる方や情報を整理したい方は是非お読みください!
第一章↓
登場キャラクターや最新情報まとめ↓
この記事の目次(クリックでジャンプ)
Episode 1
ガンマ | あははははっ! ははっ、はははははっ! 全部、ぜーんぶ! おぶっ壊して差し上げますわー! |
イプシロン | うっ……もうっ! やりにくいったら、ありゃしない! |
ガンマ | それ! 当たれ! 当たれ当たれぇ! |
デルタ | っ、ガンマのくせに……! |
デルタ | だけど、あの攻撃当たると絶対にやばいのです! |
ガンマ | 野生の勘ってやつ? あはははっ、だーいせーいかーい! |
ガンマ | 最強ガンマ様の攻撃はー……当たれば即死の一撃必殺でーす! 粉みじんになって、さらさら~って風に攫われちゃうよ~! |
アルファ | (動きが読めないのはいつものことだけど、 破壊力が本当に笑えないわね) |
ガンマ | じゃ、いきますよ~。 そーれっ。 |
クレア | 消えた? |
アルファ | 避けて! |
ガンマ | ばあ。 |
クレア | っ! いつの間に―― |
クレア | がはっ!? |
ローズ | クレアさん! |
ガンマ | どう? 私サイキョーでしょ! |
クレア | う、ぐ……あ……。 |
アルファ | これは……。 |
アルファ | (左肩から先が、完全に吹き飛んで消えている……) |
アルファ | (たった一撃でこれ……。 とんでもない力ね) |
イプシロン | アルファさま……。 |
アルファ | ええ、分かってるわ。 |
アルファ | イプシロン、ゼータ、デルタ! 3人で囲んで! 一気に押し切るわよ! |
イプシロン | はい! |
ゼータ | 任せて! |
デルタ | がう! |
ガンマ | あら? 3対1? 別にいーけど、負けたらチョー恥ずかしいって分かってる!? |
アルファ | 3対1……果たしてそうかしら? |
ベータ&イータ | …………。 |
ガンマ | なるほど。前衛3人で攪乱させて、 隙を見せたら後ろのふたりがズブリってわけね。 |
ガンマ | えー! 弱い者イジメ、よくなーい! ま、5対1でも、弱いのはそっちですけどねー!!!! |
イプシロン | ガンマ。元に戻してあげる。 方法はまだ、分からないけど。 |
イプシロン | 必ず、必ずね。 |
ガンマ | 私は、元に戻らなくても一向に構いません。 ていうか、絶対に嫌なんですけど! |
ガンマ | 非力で、いつも陰に隠れていて、 お金を稼ぐことしかできない。 |
ガンマ | そんな最弱な私、なんの意味もないですし! |
イプシロン | 誰もそんなこと思っちゃいないわよ。 それがあんたの本心とも思えないけど。 |
ゼータ | 今は何を話しても無駄だと思うよ。 |
デルタ | とりあえず、ぶっ倒してみるのです! |
ガンマ | そんなの、できるわけないじゃーん! |
ガンマ | はあああああ……! |
デルタ | ……がう? 速くなってるけど、いつものガンマと変わってない? |
デルタ | やっぱり、ガンマはガンマなのです! こんなの楽勝なのです! |
アルファ | 油断してはダメ! |
ガンマ | ニカァ! |
デルタ | っ! いつもより全然速いのです! |
ガンマ | ええい、ちょこまかと虫みたいに! |
デルタ | わっ! とっ! がっ! |
ガンマ | どーしました!? 防ぐので精一杯ですか!? |
デルタ | こんの……ガンマのくせに! |
ガンマ | ぎゃん!? や、やりますね! ではスピードアップです! |
イプシロン | はっ! |
ゼータ | くらえっ! |
ガンマ | ふん! そんな生ぬるい魔力、 通用すると思って!? |
ガンマ | ……とはいえ鬱陶しいし、 そこのふたりから先に―― |
ガンマ | ぐえっ!? |
ベータ | こっちもいますよ! |
イータ | 背を向けたら……やる。 |
ガンマ | むっきぃぃぃ!!!! |
アルファ | いいわ! みんな、そのまま攻め続けて! |
アルファ | こちらが攻撃を受けないように、連携して牽制し合うのよ! |
ガンマ | ぐう……! まったく次から次に! このせっかちさん! |
イプシロン | 防戦一方で、イライラしてそうね。 いけるかも……! |
アルファ | デルタもいったん退いて! 今のガンマに、接近戦は―― |
デルタ | 隙あり!!!! |
デルタ | がうっ!? |
ガンマ | 残念~!!!! 隙なんてありませーん!!!! |
アルファ | デルタ! |
ゼータ | バカ犬!!!! |
イプシロン | っ! |
イプシロン | ぐああっ!? |
アルファ | イプシロン!? |
ガンマ | え、そっち? |
アルファ | (あ、危ない……。 間一髪、デルタを押し倒してくれたおかげで、助かったわ) |
アルファ | (だけどイプシロンが背中に傷を……) |
ガンマ | そんなにミンチになりたいなら。 ふたりまとめてお料理してあげますわ~! |
ベータ | させません! |
ガンマ | きゃあっ!? もー! |
アルファ | デルタ! 今のうちにイプシロンを! |
デルタ | がう……。 |
イプシロン | くっ……すみません、アルファ様……。 不覚をとりました……。 |
アルファ | しっかりして! |
アルファ | (背中の傷が酷い。 満足に治療ができないこの状況じゃいずれ……) |
ガンマ | きゃははははは! 次は誰ですか~! 負ける気がしませんねぇ! |
デルタ | がう……アルファ様……。 |
アルファ | 大丈夫よ。とにかく今はガンマを抑えないと。 |
アルファ | (ガンマのあの無茶苦茶な剣筋は、 軌道が予測不可能だし、近づくこともできない) |
アルファ | (遠距離からの攻撃も弾かれてしまうし、 隙がないように見える) |
アルファ | (……でも、策はある。いや、あったのに) |
アルファ | (イプシロンが抜けた分、 ガンマの猛攻を防ぐのが難しくなってしまった) |
アルファ | (このままじゃ……) |
ドゥーエ | ねえペンテ……。 足手まといなのは分かってる。でも。 |
ペンテ | 行きましょう。 数で抑え込めば、なんとかなるかも……! |
オリヴィエ | はあ……待て、ふたりとも。 私がいく。 |
ドゥーエ | えっ? |
オリヴィエ | その獣人ふたりと一緒に、 攻撃を避けて錯乱させ続ければいいんだろ? |
アルファ | え、ええ……。よく分かったわね。 |
オリヴィエ | だがそのやり方だと時間は稼げるが、 隙なんて生まれるかどうか。 |
アルファ | その点は大丈夫よ。 ガンマのことは、誰よりも分かってる。 |
オリヴィエ | ……分かった。そこまで言うなら任せよう。 |
ガンマ | 作戦会議は終わりましたかあ? |
ガンマ | どれだけ考えても、全部おぶっとばしてあげるから、 意味ないと思いますけどー! |
アルファ | みんな、手はず通りに。 引き続き、ベータとイータは後ろから援護お願い。 |
ベータ | はい。 |
イータ | 分かった……。 |
アルファ | 私はゼータ、デルタ、オリヴィエの後ろに。 ガンマが隙を見せたら……やるわ。 |
ガンマ | どーせ時間の問題でしょ? 言っとくけど、私に魔力切れとかないからー! |
ガンマ | 全部巻き込んで、 切り刻んでやります! |
ガンマ | うおりゃああああああ!! |
オリヴィエ | ……ふん。 |
ガンマ | 避けっ……!? このっ! |
ローズ | す、すごい……。 あんな近距離で、攻撃をすべてかわしてます……。 |
アレクシア | あの不規則な動きを、どうやって予測してるのよ……。 |
ゼータ | (……違う) |
ゼータ | (あれは動きを予測してるんじゃない。 見てから避けている) |
ゼータ | (私は遠距離攻撃で牽制しつつ、 そもそも間合いに入らないようにしてるってのに) |
ガンマ | この! このこの! |
オリヴィエ | くっ!? |
ガンマ | あははは! 当たったわね! ほら、もっと速くなるわよ! |
オリヴィエ | おい、このままじゃ……。 |
アルファ | 大丈夫よ、避け続けていれば、必ず……! |
ガンマ | それ! それそれそれそれぇぇぇ!!!! いい加減……ぐちゃぐちゃにぶっ潰れ……うわぁ!? |
オリヴィエ | そこだ! |
ガンマ | ぐえっ!? しまっ――剣が……! |
アルファ | 今! はあああ! |
ガンマ | ぐはっ!? |
アルファ | 確保! |
デルタ | がうっ! |
ガンマ | ぎゃー! |
ゼータ | このっ……すごい力……! みんなも! |
ガンマ | わ……あ……さすがに、この人数は……無理ぃ……。 |
ドゥーエ | すごい、本当に無力化した。 |
ペンテ | オリヴィエもすごいけど、あの人たちも……。 |
アルファ | ごめんなさいね、ガンマ。 しばらく、眠っていてちょうだい。 |
アルファ | ……ありがとう、みんな、オリヴィエ。 おかげでなんとかなったわ。 |
オリヴィエ | 攻撃を避けるだけでなんの意味があるかと思っていたが、 そういうことか。 |
オリヴィエ | ガンマの規則性のない動き、並外れたパワーとスピード。 だが、それがいくらあっても―― |
オリヴィエ | 絶望的なほど、戦いの才能が、ない。 |
アルファ | それが、ガンマよ。 |
ローズ | しかし、なんとか制圧はできましたけど……。 |
アルファ | (被害が……大きすぎる。 イプシロンもクレアもやられてしまった) |
アルファ | (ああ……お願い。こんな時こそ、 時間が戻ってくれれば……!) |
フレイヤ | リリ。そっちはどうですか? |
リリ | はい、大丈夫そうです。 |
ローズ | これだけ被害があって、大丈夫もなにも……。 |
クレア | ………………。 |
ローズ | く、クレアさん!? |
アルファ | えっ……どうなってるの……? 確かに左腕がなくなっていたと思うのだけど……。 |
クレア | わ、私も何がなんだか……。 |
リリ | イプシロンさんの治療も終わりました。 これで問題ありません。 |
イプシロン | アルファ様……私…… 血を流しすぎて、意識も消えかけてたんですが……。 |
イプシロン | 生きて……ますよね。 |
アルファ | え、ええ……。 |
クレア | ついてる……わよね……。 間違いなく。 |
クレア | 違和感もまったくない。 もしかして勘違い……だったような気すらするわね……。 |
アルファ | そんなわけは……と言いたいところだけど、 私も分からなくなってきたわ。 |
アルファ | どうなってるの……? |
リリ | おふたりとも生きていましたから。 だから、治せました。 |
アレクシア | 言っている意味が分からないのだけど。 |
イータ | ……見てた。 腕は、確かになくなってた……。 |
イータ | でも、彼女が魔力を込めると…… 傷口から、生えてきた……。 |
アレクシア | は、生え……。 |
オリヴィエ | 死んでいなかった。 死んでさえいなければ、リリなら治せる。 |
オリヴィエ | それだけだ。 |
ゼータ&ベータ | ………………。 |
ローズ&アレクシア | ………………。 |
デルタ | ……がう? |
オリヴィエ | すんだのならさっさと行くぞ。 そいつは見張りでもつけて牢に放り込んでおけ。 |
アルファ | あ……ありがとう、オリヴィエ。 そしてリリ。助けられたわね。 |
リリ | いえいえ! 私たち、もう仲間ですから! |
オリヴィエ | ……別に。 |
ゼータ | あ、おいちょっと! |
イプシロン | え、なんか機嫌悪くない? なんで? |
アルファ | ……これが、三英雄。 とんだ化け物ね。 |
アレクシア | ………………。 |
Episode 2
ガンマ | ……ふ……ふふふ……。 |
デルタ | がう? |
ガンマ | あはははははっ! 最強ガンマ様、ふっかーつ!! わたしがやられるとか、うっそじゃーん!!!! |
ベータ | え、たった今、取り押さえたはずなのに……。 |
オリヴィエ | ……懲りないな。 何度やっても結果は変わらない。 |
ガンマ | それはどうかしらね……えいやっ!! |
オリヴィエ | 何……!? |
ベータ | た、竜巻が!? 一振りで、そんな……! |
オリヴィエ | ぐっ……ぐああああああ!? |
リリ | ああ……! オリヴィエさんが!! |
ガンマ | さあ、次はあなたたちの番よ! 月までぶっ飛ばして、クレーターを増やして差し上げますわ! |
ベータ | きゃあ! |
フレイヤ | くっ……! 飛ばされる……! |
ベータ | ダメ……このままじゃ……全滅してしまう……! |
シャドウ | ……ふん。心地のよい、そよ風だな。 |
ベータ | え!? |
ガンマ | そ、そんな……まさか! |
シャドウ | ガンマ。そのザマでは、先へつれて行けない。 ……ここまでだ。 |
ベータ | シャドウ様ぁ!!!! |
ガンマ | ま……まさか……ガクガク……。 本物……ドキドキ……。 |
ガンマ | いえ、そんなわけないわ! 騙されちゃダメよ、ガンマ! |
ガンマ | あなたは出来る子なんだから! ニセモノなんか……はい! ぶっ飛ばせー! |
ガンマ | っ! え、ええ!? |
シャドウ | 飛んで行くがいい。 月だろうがどこまででも、好きなところにな。 |
ガンマ | い、いやああああああ!!!! |
ベータ | シャドウ様……? ほ、本物なのですか……? |
シャドウ | 姫よ。そのあどけない瞳には、 我が幽鬼に映っているのか? |
ベータ | っ! いいえっ! シャドウ様! 偉大で、神々しいお姿です! きっと……生きていらっしゃると信じていました! |
シャドウ | 機は熟した。 この世界を統治してシャドウ様キングダムを作る。 |
ベータ | ああ……シャドウ様キングダム……! |
ベータ | 毎夜、眠る前に語っていただいていた、 あの悲願をついに実現されるのですね……! |
シャドウ | そうだ。 ……さあ姫。手を。 |
ベータ | はい! |
シャドウ | 我と共に新たな時代を築くのに、 相応しい人は、ただひとりだ。 |
ベータ | シャドウ様!! 行き着く先が地獄でも、ついて行きます! |
アルファ | おめでとう、ベータ。 彼の隣はあなたのものよ。 さあ、みんな! 拍手で見送りましょう! |
オリヴィエ | 拍手喝采、大歓声…… 旅路への第一歩に相応しいな。 |
イプシロン | まったく……シャドウ様に相応しいのはあなたしかいないわね。 |
デルタ | おめでとうなのです! |
イータ | ……おめでとう。 |
ガンマ | おめでとう! |
ベータ | 私……必ず彼と一緒に、 シャドウ様キングダムを建国して、幸せになりまあす! |
アルファ | ――というわけなの。 |
クレア | あなたの話を信じるなら…… そのアーティファクトを使えば、 シドは生き返ることができるのね……? |
アルファ | ええ。 あなたの弟だけじゃなくて、シャドウもね。 |
ゼータ | つまり、不可逆の懐中時計を持っている黒幕を捕まえて、 奪い取ればいいってことだね。 |
イプシロン | 元の時代に戻るための手がかりも、 その辺りにありそうです。 今後の指針にするとして……ガンマはどうします? |
アルファ | 彼女は……このまま幽閉しておきましょう。 ……元に戻せるかは、分からないけど。 |
ゼータ | 見張りはつけておく? |
アルファ | そうね…… ベータ、どう思う? |
ベータ | ……はあ……ウ様―― |
アルファ | ベータ? |
ベータ | っ、は、はい! シャドウ様の話ですよね!? |
アルファ | ……シャドウではなくて、ガンマよ。 あなた、どうしたの? |
ベータ | え……あ……ごめんなさい。 少し、疲れが出たみたいで……。 |
アルファ | ……まあいいわ。 ユキメ、見張りをお願いできるかしら。 |
ユキメ | はいはい、お任せを。 |
アルファ | ええ、よろしくね。 ガンマとユキメが動けない分、 私たち5人の働きが重要になってくるわ。 |
アルファ | これから私たちは黒幕を探し出し、 不可逆の懐中時計を手に入れなければならない。 そのためにまず―― |
アルファ | フレイヤ、あなたたちに協力して、 ディアボロスを倒すわ。 |
フレイヤ | 分かりました。 |
アルファ | ええ。じゃあ今後の動きだけど―― |
クレア | ちょっ! 待って待って! |
アルファ | どうしたのかしら? |
クレア | 展開が急すぎてついていけないんだけど……。 なんでさらっと流してるわけ? |
アルファ | そうすることで、互いにメリットがあるからよ。 |
リリ | あのー……わからないんですが。 不可逆の懐中時計を見つけるという話が、 なぜディアボロスを倒すという話に? |
リリ | 私たちにとっては、ありがたいのですが……。 |
アルファ | シャドウやシドの復活には、 ディアボロスを倒すことが必要不可欠だからよ。 |
アルファ | 黒幕は不可逆の懐中時計によって、 シャドウをこの時代に呼び出した。 |
アルファ | シャドウだけではなく、私たちまで呼ばれてしまったのは、 黒幕にとっても計算外だったでしょうね。 |
アルファ | しかしシャドウは、ディアボロスに負けて死んだ。 そしてその直後、時間が巻き戻った。 |
アルファ | シャドウが、死んだあとの時間に。 |
フレイヤ | 黒幕の目的がシャドウという男なら、 不可逆の懐中時計でシャドウが死ぬ前に戻るはずです。 |
フレイヤ | ですが、そうしなかった。 それはなぜか? |
フレイヤ | しなかったのではない。 できなかったのだと思います。 |
サラサ | つまりぃ、ディアボロスが不可逆の懐中時計に影響を与えて、 時間遡行の邪魔をしている、ってことね。 |
フレイヤ | その通りです、サラサ。 |
サラサ | せっかく強力な魔力を取り込んで、 パワーアップしたんだもの。 |
サラサ | やっぱナシで! ってことにされたら、 たまらないわよねえ。 |
アルファ | ええ。だからシャドウとシドの生きている時間に戻るには、 障壁となっているディアボロスを倒さなくてはいけない。 |
アルファ | そしてその間に、黒幕も見つける。 これがシャドウガーデンの目的よ。 |
フレイヤ | ディアボロスを倒す、黒幕を見つける、 そのどちらも、わたくしたちの目的と合致しています。 |
フレイヤ | だから協力する。 ……もっとも、黒幕はあなたたちの中に潜んでいると、 わたくしは考えていますがね。 |
アルファ | あら。私は、あなたたちの中にこそ、 黒幕はいると思っているわ。 |
アルファ | この時代で成し遂げたい何かがある。 そのために、過去にシャドウを呼び寄せたのではないかしら? |
フレイヤ | 過去を変えることで理想の未来を手に入れたい。 そんなことを考える輩は、どの時代にもいそうだけど。 |
アルファ&フレイヤ | ………………。 |
リリ | お、落ち着いてください、おふたりとも。 |
リリ | 互いに協力するんですよね? 疑うことをやめて、もっと歩み寄りましょう。 |
オリヴィエ | 本来ならディアボロスは、 私たちだけで倒せた。 |
オリヴィエ | お仲間が余計なことをしたせいなのに、 共闘を持ちかけるのか。 |
ベータ | なんですって!? |
ルージュ | 彼の魔力を吸収したことで、 ディアボロスが手に負えないくらい、 強力になってしまった。 |
ルージュ | 少し迂闊だったかもな。 愚かというか、蛮勇というか。 |
ベータ | 愚か? 蛮勇? まるでデルタを指すかのような、 その単語はシャドウ様を表すのに非常に不適切です。 即座に撤回してください。 |
デルタ | 今、デルタの名前呼んだ? 難しい言葉いっぱい…… 何言ってるかわかんないのです。 |
ベータ | シャドウ様は偉大なお方です! 叡智に富み、崇高な理念のため粉骨砕身お働きになり、 比類なき力を持ちながら驕ることがない、人格者! |
ベータ | 今回の件も自分の死を予測し、復活するまで、 全て織り込み済みの計画に違いありません。 つまり! 愚かでも蛮勇でもないのです! |
ゼータ | ベータ? ちょっと落ちつきなよ。 |
ベータ | 何故ならシャドウ様は全てを超越した方ですもの! 彼が歩けば花が咲き乱れ、星は流れ落ち、敵は地に伏せる! そして鳴り響く管弦楽団のファンファーレ!! |
イプシロン | ……呆れた。 話してる内に妄想の世界に入ってるわね、これ。 |
フレイヤ | ……はあ……まったく…… 本当によくわからない人たちですね。 聖教の上の方々にどう報告したものでしょう……。 |
フレイヤ | 討伐できませんでした。 謎の未来人を取り込み、超進化しました。 |
フレイヤ | 私たちもディアボロスの犠牲になりましたが、 時間遡行の能力により蘇りました。 |
フレイヤ | 頭が……痛い……。 |
オリヴィエ | 分かりません、でいいだろ。 どうせ説明できないんだ。 |
フレイヤ | それは聖教への背信行為ね。 ねえオリヴィエ、いつも言っていますが、 私たちは聖教に拾われた恩が―― |
リリ | いえ! 全てありのままに報告しましょう。 みなさん、きっとリリたちを信じてくれます。 だって、同じ聖教の仲間なんですから! |
オリヴィエ | だと。 好きにしてくれ。 |
フレイヤ | ……もういいです。 初めからあなたたちは頼りにしていません。 わたくしがなんとかします。 |
イプシロン | ……少し驚きました。 素の彼女はあんな感じなんですね。 |
ゼータ | それを言うなら、 最初からイメージとは違ったよ。 |
ゼータ | 歴史上伝わるフレイヤといえば、 ミドガルを建国し、民に寄り添う優しき人格者だ。 でも、目の前の彼女はそれとは違う。 |
ゼータ | まあ、フレイヤにだけ言えることじゃないけど…… 後世にまで伝わるものには、 もしかすると虚像や脚色が入り混じるのかもね。 |
アレクシア | ………………。 |
Episode 3
オリヴィエ | とにかく、好きにしてくれ。 |
フレイヤ | どこに行くんですか? |
オリヴィエ | その辺にいる。 話がまとまったら呼べ。 |
フレイヤ | のんきに昼寝でもする気ですか。 |
オリヴィエ | そんなところだ。 |
アレクシア | ……ねえ、聞きたいんだけど。 |
オリヴィエ | ……誰だ、お前。 |
アレクシア | あなたはなんのために戦ってるの? |
オリヴィエ | なぜ、そんなこと―― |
アレクシア | 答えて。 |
オリヴィエ | …………暇つぶしだ。 |
アレクシア | 暇つぶし……? それだけの、才能を持っていながら? |
アレクシア | 私の理想とする人は、決して驕らず、 常に努力をして自分自身を磨いていた。 |
アレクシア | なのに、あなたは……。 |
オリヴィエ | はあ……。 |
オリヴィエ | 努力で振るう剣は美しく、 才能で振るう剣は傲慢だとでも? |
アレクシア | っ!! |
オリヴィエ | 未来人はよく喋る。 力を得た過程がそんなに重要か? |
オリヴィエ | 話し合いの結果には従う。 勝手にしてくれ。 |
アレクシア | っ……許せない……。 |
クレア | アレクシア王女……!? |
ローズ | 今、剣を持って行きましたよね……? |
559 | まさか、やり合おうって? |
ユキメ | あらあら…… 手を組みましょうって時に、切り合いはご法度でありんすよ。 |
アルファ | まったく……様子を見てくるわ。 場合によっては止めないと。 |
オリヴィエ | ……理解できないな。 |
オリヴィエ | 自分の前に剣を抜いて立つ意味が、 わかっているのか? |
アレクシア | そんなの、どうでもいいわ。 もっと大事なことがあるのよ。 |
オリヴィエ | ………………。 |
アレクシア | はああああっ!! |
オリヴィエ | ……凡才が。 |
アレクシア | っ、ぐあっ……! |
オリヴィエ | ……他愛もない。 |
オリヴィエ | 剣を向けてきた覚悟はできているな? では―― |
フレイヤ | オリヴィエ! |
オリヴィエ | ……ふん。 |
アレクシア | ぐっ……どうして……どうして!? |
アレクシア | どうして彼の剣が破れて、あなたの剣が生き残るの……? 天才の剣の道のほうが、優れているとでも? |
アレクシア | ……彼がいなくなってしまったのなら……私が証明する! この剣の道が、劣ってなんかいないってことを! |
オリヴィエ | 己を信じて足掻き、高みに至ろうとするか。 |
オリヴィエ | それは、私のもっとも嫌いな、持たざる者の剣だ。 |
アレクシア | っ!? |
オリヴィエ | ………………。 |
クレア | アレクシア王女、傷の手当てをしましょう。 今、肩を―― |
アレクシア | 必要ない! |
クレア | え? |
アレクシア | っ……いえ、ごめんなさい…… 肩を貸してくれる? |
クレア | ええ、もちろんです。 |
イプシロン | アルファ様。 オリヴィエは今、本気で彼女を……。 |
アルファ | そうね……。 |
フレイヤ | あまり追及しないほうがいいですよ。 今後の関係に遺恨を残したくはないでしょう? |
アルファ | ………………。 |
フレイヤ | はあ……。とにかく、ディアボロスとあなたたちの件は、 聖教にはうまく報告しておくわ。 |
フレイヤ | と、それよりも……アルファ。 もっと建設的な話をしましょう。 |
アルファ | ……ええ、賛成だわ。 |
フレイヤ | ディアボロスを直接叩く前に、 配下の吸血鬼を倒しておきましょう。 戦力を削いでおく……かまいませんか? |
デルタ | えー! そんなの回りくどいのです! ディアボロスと戦おう! |
アルファ | デルタ、黙って。 |
デルタ | がう……。 |
アルファ | 戦力を削ぐのに異論はないわ。 ディアボロスと戦っている時に、 吸血鬼の軍勢が押し寄せてきたら厄介だもの。 |
アルファ | 何か吸血鬼の情報はあるのかしら? |
フレイヤ | わたくしたちが叩いておくべき相手は、 ディアボロスの配下で最大勢力の一派を率いる吸血鬼…… 『ゲキツヨン』です。 |
フレイヤ | まずは明らかになっている、 やつの拠点のひとつを潰しましょう。 |
アルファ | 拠点がわかっているのに、 今まで何もしてなかったの? |
フレイヤ | その拠点には西と東に入口があり、掃討するには、 ふた手に分かれて突入する必要があるんです。 |
フレイヤ | ですので、隊がふたつに分かれてしまう。 片方は私が指揮をして、もう片方はサラサに指揮を任せても よかったのですが……。 |
フレイヤ | 少し、荷が重いかもと手をこまねいていました。 でも、あなたなら。 |
アルファ | ……いいわ。協力しましょう。 |
フレイヤ | 東西の入口は離れています。 山脈を挟む形になっているので、 東側の入口に行くには、それだけで数日を要します。 |
フレイヤ | 東側へはわたくしたちが参りましょう。 こちらの到着を待って、 あなたたちは西側の入口から突入してください。 |
アルファ | ええ、わかった。 ただそちらの陣営にベータとゼータをお願いするわ。 |
アルファ | ふた手に分かれるのなら、 そっちに知った相手がいたほうがタイミングを取りやすいの。 |
フレイヤ | 問題ありません。 |
クレア | 待って。私もいいかしら。 |
アルファ | えっ。 |
クレア | これは、私にとっては、シドを救うための戦い。 |
クレア | ただの足手まといにはならないわ。 自分の弟は、自分の手で取り戻す。 |
アルファ | ……ええ、いいわ。 ならベータやゼータと一緒に、東側に同行してちょうだい。 |
アルファ | フレイヤはそれで―― |
フレイヤ | 問題ありませんよ。 |
クレア | はい。ありがとうございます。 よろしくお願いします。 |
フレイヤ | しかし、そういう理由であれば、 わたくしたち側の人間もそちらにいたほうがいいですね。 |
フレイヤ | ノンナとルージュにお願いします。 |
ルージュ | 承知。 |
ノンナ | はいはい、了解。 |
アルファ | とはいえ、あまり多すぎても目立つでしょうね。 |
アルファ | 西側は……そうね。 私、イプシロン、イータ、アレクシア、 ウィクトーリア、ノンナ、ルージュでいくわ。 |
フレイヤ | では東側は、 わたくし、オリヴィエ、リリ、サラサ、 ベータ、ゼータ、クレアでどうでしょうか。 |
アルファ | 分かったわ。 |
アルファ | 詳しい作戦を立てましょう。 拠点に戻ってるわね。 |
アルファ | ゼータ。 |
ゼータ | うん。 |
ゼータ | わかってる。 向こう側のメンツを見張ればいいんだよね。 |
アルファ | ええ、素性がまったく知れない相手だもの。 それに食えない人よ。 あちらからも自然に送り込まれてしまったわ。 |
アルファ | 頼んだわよ、ゼータ。 数日一緒にいれば見えてくるものもある。 探ってきてちょうだい。 |
Episode 4
ベータ | シャドウ様…… 玉座からの景色はいかがですか? |
シャドウ | 世界の統治は瞬く間に成った。 なんの感慨もない。 |
シャドウ | それに、重要なのは過去よりも未来だ。 このシャドウ様キングダムを、 未来永劫のものとしなければならない。 |
ベータ | はい! このベータ、どこまでもついて行きます。 シャドウ様の……国王陛下の、唯一の妃として! |
シャドウ | よく言った。 我が比翼の自覚があるのなら、 さらなる力の神髄を見せてやろう。 |
シャドウ | 刮目せよ―― |
ベータ | こ、これは……!? シャドウ様が巨大化している……!? |
ベータ | め……目の前がシャドウ様でいっぱい! ああっ、ああっ、なんて幸せなのでしょう!! |
ベータ | げほっ! げほげほっ……! ……はあ……はあ……。 |
サラサ | ベータさん、大丈夫? もしかして、気、失ってた? |
ベータ | ……問題ありません。 少し休憩していただけですから。 |
サラサ | そ、そう? |
フレイヤ | 襲撃してきた吸血鬼は今ので最後ね。 サラサ、被害は? |
サラサ | ないわよお。 フレイヤちゃんの指揮のおかげで、みんな無事。 |
サラサ | だけど。 |
ベータ | はあ、はあ……。 |
ゼータ | ベータ、水飲んで。 |
ベータ | ええ……ありがとう……っ……。 |
リリ | ですが、まさか吸血鬼たちに出くわすなんて……。 ちょうど拠点に戻るところだったみたいですね。 |
オリヴィエ | 運が良かったのか、悪かったのか。 |
フレイヤ | どうせ、拠点に乗りこんだら殲滅する手はずだったのです。 先んじて戦力を削ぐことができたので、よかったと思いますよ。 |
サラサ | 幸い、約束まではまだ日にちがあるからねえ。 この先の村で、少し休みましょう。 |
ベータ | ゼータも負荷がかかっているでしょう。 あなたは大丈夫なの? |
ゼータ | まあ、なんとか。 私はさっき少し休むタイミングがあったから。 |
ベータ | ならいいけど……。 |
クレア | ………………。 |
クレア | ねえ、ちょっと。 |
フレイヤ | なんですか? |
クレア | 拠点を出て数日…… ずっとゼータとベータがフル稼働しているわ。 ポジションを代えるか、休ませるべきよ。 |
フレイヤ | 西側に行ったわたくしたちの仲間の指揮権は、 アルファに渡しています。 |
フレイヤ | そして東側の指揮権はわたくしに委ねられたのです。 あなたの主張は越権行為であり、 チームの統率を乱すことに他ならないと理解していますか? |
フレイヤ | そもそも、ポジションを変更するとおっしゃいますが、 他に誰が、彼女たちの代わりができますか? |
フレイヤ | あなたでは力不足ですよ。 |
クレア | な!? |
フレイヤ | ですが……不満を溜めている人を指揮するのは、 わたくしも本意ではありません。 |
フレイヤ | ベータ、ゼータ。 |
ベータ | ……いえ、このままで大丈夫です。 |
ゼータ | 同じく。 |
ベータ | アルファ様とはまったく違いますが…… フレイヤさんの方針が、間違っていないことはわかります。 |
ベータ | チーム全体として、最大限の能力を発揮できる、 無駄のない指示ばかりで……合理的な判断かと。 |
ゼータ | 戦闘中、極端にひとりに負荷がかかる瞬間がある。 だけど……そうだね、合理的だとは思う。 |
フレイヤ | では、引き続きお願いします。 潜伏している吸血鬼、残らず狩ってください。 |
ベータ | 了解です。 |
ゼータ | 了解。 |
フレイヤ | と、いうことです。 |
フレイヤ | 本人が納得して、わたくしの考えを理解しているのに、 外野が文句を言う道理は……ありませんよね? |
クレア | ………………。 |
フレイヤ | 理解していただいたようで、なによりです。 |
ベータ | 残党は、すべて狩りました。 このあたりにはもう、敵の気配はありません。 |
フレイヤ | そのようですね。 では、行きましょうか。 |
フレイヤ | サラサ。 |
サラサ | はい~。 |
フレイヤ | もうすぐ村に着きます。 私たちが滞在している間、見張りをお願いします。 |
サラサ | うん、了解だよ。 任せて。 |
ゼータ | (見張りって……吸血鬼は殲滅したはず。 もちろん、用心するに越したことはないけど、たぶん……) |
フレイヤ | なんでしょうか? |
ゼータ | ……なんでも。 指揮権は、そっちにあるからね。 |
リリ | ベータさん、大丈夫ですか? 顔色がよくありませんが……。 |
ベータ | ……平気です。お気になさらず。 |
ベータ | (……たくさん、殺した) |
ベータ | (これまでなら、そんなこと、どうでもよかった。 だって……) |
ベータ | シャドウ様……。 |
村人A | ようこそ。よくいらっしゃいました。 |
村人A | 寝床は空き家があるのでそこを使ってください。 |
村人A | また、夜は宴と簡単な余興を開こうと思いますので、 ぜひご参加くださいね。 |
フレイヤ | ありがとうございます。 ご丁寧にもてなしていただき、痛み入ります。 |
村人A | 気になさらないでください。 みな、騒ぐのが大好きなだけですよ。 |
村人A | 何かあれば、声をかけてください。 では、夜までごゆっくり。 |
クレア | 親切な村ね。 急に来た旅人にここまでしてくれるなんて。 |
フレイヤ | ……ふっ、そうですね。 本当に、気味が悪いくらい、親切ですね。 |
クレア | ……? |
ベータ | ……すごい、賑やかですね。 村の人総出で迎えてくれるなんて。 |
ゼータ | そう……だといいけどね。 |
クレア | なんでそんな不吉なことを……。 気が張ってるのは分かるけど、休んだ方がいいわ。 |
ゼータ | 傷はリリ様に治していただいたから問題ないよ。 |
リリ | いえ、リリは傷は治せても、 体力やすり減った心までは治せませんから。 |
リリ | おふたりもクレアさんの言うとおり、 しっかり食べて休まれてください。 |
リリ | ほら、この村特産の木の実ジュースも、 甘い香りがして美味しそうですよ。 |
フレイヤ | リリ。 |
リリ | あ、はい。なんでしょうか? |
フレイヤ | 村の子どもが熱を出したみたいなんです。 申し訳ないですが、診て貰えないですか? |
リリ | え、それは大変! すぐいきます! |
フレイヤ | 入り口から2番目の民家です。 お願いします。 |
リリ | はい! |
オリヴィエ | ……おい、あそこは空き家だったろ。 |
フレイヤ | オリヴィエ。 |
オリヴィエ | …………分かったよ。 |
村人A | みなさん、お楽しみ頂いてますか? |
フレイヤ | はい。おかげさまで。 |
村人A | おつかれでしょうから、ゆっくりされてくださいね。 特に木の実ジュースはこの村の特産でして。 |
村人A | もうお飲みになりましたか? |
フレイヤ | はい。ねえ、オリヴィエ。 |
オリヴィエ | え? ああ。さっき飲んだけど別に……。 |
オリヴィエ | …………。 |
オリヴィエ | ……いや、そうだな。 今、効いてきたよ。 |
オリヴィエ | ここでしか飲めない、特別なものみたいだな。 |
クレア | ――ぐ……あ……。 |
クレア | な、何……? 急に喉と胃が……熱く……。 |
クレア | い……息が……。 |
村人A | ど、どうなってるんだ……。 一体、どうして……。 |
村人A | どうして、他の奴は平気なんだ!? |
フレイヤ | わたくしは飲んだ振りです。 おそらくそこのふたりも。 |
ベータ | こうなる気はしていましたから。 |
ゼータ | 残念だけどね。 |
村人A | そっちの女は飲んだって言ってたぞ! |
オリヴィエ | 飲んだよ。だから言っただろ。 ここでしか飲めない特別なものだって。 |
オリヴィエ | 毒入りの飲み物なんて、珍しいからな。 |
クレア | 毒……。 |
村人A | 巨大イノシシすら無効化する毒だぞ! それに、そっちの女は見捨てるのか!? |
フレイヤ | いえ、そうはならないかと。 なぜなら……。 |
リリ | クレアさん! |
リリ | 大丈夫ですか!? 今解毒しますからね! |
リリ | 毒が仕込まれていること、知っていたんですね! どうしてこんな酷いこと! |
フレイヤ | ここに来るまでに、吸血鬼たちと散々戦いましたよね? |
フレイヤ | 吸血鬼の通り道である場所に、 こんな平和な村があること自体、おかしいと思いませんか? |
リリ | それは………。 |
フレイヤ | この村は吸血鬼と取引をしています。 ……いえ、というより、信望している、でしょうか。 |
フレイヤ | 定期的に村の人間や旅人を餌として差し出すことで、 村そのものは襲われないのです。 |
フレイヤ | 要するに、吸血鬼の犬です。 放っておけば、わたくしたちの情報が筒抜けになっていました。 |
リリ | そ、それを確定させるために、 クレアさんに毒を飲ませたんですか? |
フレイヤ | 飲むかも知れないとは思っていましたが、 飲ませたわけではありません。 |
フレイヤ | 実際、ベータとゼータは感づいて口をつけていません。 気づけなかったのは、彼女の落ち度です。 |
フレイヤ | どちらにしても、リリが無事なら問題ありません。 だからあなただけは事前に退避させました。 |
村人A | く、くおおおおっ! おい、お前ら!!!! |
村人A | 全員で囲んで叩くぞ! すぐにゲキツヨン様の手下がやってくる! それまでの辛抱だ! |
サラサ | 来ませんよお、残念ですけど。 |
村人A | えっ……? |
サラサ | 密告しようと村を飛びだした男は、 処理しておきました。 |
村人B | う……あ……そんな……。 |
ゼータ | やっぱり……見張るって言うのは吸血鬼じゃなくて、 村人を見張るって意味だったのか。 |
フレイヤ | サラサ、これで全員ですか? |
サラサ | うん、みんなこの場にいるよお。 隠れてる人もいないみたい。 |
フレイヤ | そうですか。子どもがいた形跡もあったのですが、 いないということは、吸血鬼に捧げましたね。 |
フレイヤ | ……この、クズ共め。 ひとりとして生かさん。 |
村人B | ひっ……! |
村人A | ひ、怯むなー!!!! 全員捕まえて、ゲキツヨン様に献上するのだー!!!! |
フレイヤ | ……終わりましたね。 念のため、生き残りがいないか確認しましょう。 |
リリ | クレアさん、大丈夫ですか? |
クレア | ……ええ、なんとか。 ありがとう、助かったわ。 |
クレア | けど、こんなやり方……。 |
フレイヤ | 気づけなかったのはあなたの弱さ。 毒に対抗できなかったのも、あなたの弱さ。 |
フレイヤ | どのみち、ここでやられるようでは、 熾烈になる吸血鬼やディアボロスとの戦いについてこられない。 |
フレイヤ | あなたにとっても、 自分を見つめ直す良い機会になったのでは? |
クレア | そ、それは……。 |
フレイヤ | 良かったですね、リリがいて。 本番は、常に彼女が傍にいるとは限りませんよ。 |
クレア | …………。 |
リリ | クレアさん……。 |
ベータ | (たしかに、こんな場所に平和な村があることは、 私も怪しいとは感じていました) |
ベータ | (フレイヤさんも、そんなことは初めから承知で、 きっとあらゆる可能性を考えていたはずです) |
ベータ | (……これが三英雄の知将。 合理的で……冷酷) |
ゼータ | ……ベータ。大丈夫? |
ベータ | (ああ……シャドウ様、私には分かりません。 この行いが、正しいことなのかどうか) |
ベータ | (だって、私にとっての正しさというのは、 シャドウ様、あなたでしたから) |
ベータ | (だから、シャドウ様のいない、今の私は……) |
村人C | っ、死ねえええええ!!! |
ベータ | ……っ!? |
ベータ | あ……しまっ……。 |
村人C | あ……ぐ……クソ……。 申し訳ございません、ゲキツヨン様……。 |
サラサ | まだ息があったみたいね。 殺したと思ったのに、すごい執念。 |
ベータ | ………………。 |
ゼータ | ベータ……。 |
ベータ | 攻撃に対して、反撃するのは当然です。 生かしておけば、禍根を残すでしょうし……。 |
ベータ | 今のは、正しい判断……です。 |
Episode 5
アルファ | ……時間ね。 東組も到着しているはずよ。 |
イータ | うう……もう疲れた……。 帰っていい? |
アルファ | いいわけないでしょ。 これから突入するってときに。 |
アルファ | これより西側の入口から中へ入り、 拠点内の吸血鬼を殲滅します。 |
アルファ | 全員、突入! |
アルファ | (奇襲の成功で攻略は順調ね。 油断はできないけど、制圧完了は近いわ) |
イプシロン | アルファ様、ご無事ですか? |
アルファ | ええ。私は大丈夫。 まだ制圧が済んでいない地点のサポートに入って。 |
イプシロン | 了解です! |
ルージュ | アルファ。周辺の吸血鬼が減ったし、 奥を偵察してきてもいいか? |
アルファ | ……ええ、任せるわ。 何かあったらすぐに戻ってきて。 |
ルージュ | 了解。 |
アルファ | (ノンナとルージュ……さすがにオリヴィエには負けるけど、 かなり優秀な部類だわ) |
559 | はあああっ! |
アルファ | (イプシロンはもちろん、559の動きも悪くない) |
イータ | 私は……離れて見てるね……。 |
アルファ | (問題は――) |
アレクシア | くっ! っ……はああああっ!! |
アルファ | (オリヴィエとの一件が尾を引いているのかしら) |
アルファ | (心配だけれど、手を出すのは無粋。 今は見守った方がよさそうね) |
アルファ | 東組は大丈夫かしら……。 |
ノンナ | 向こうに行ったお仲間の心配? ベータとゼータだっけ。 |
アルファ | そうね。数日間も一緒に過ごすには、 癖の強い人たちだもの。 |
ノンナ | あはっ、言えてる。 オリヴィエとか、謎多き人物だよね。 |
アルファ | あなたも詳しく知らないの? |
ノンナ | 出会った時からあんな感じだから。 昔は違ったって話は聞くけどね。 |
アルファ | そうなの? |
ノンナ | 正義感が強くて、 まっすぐな性格だったらしい。 |
アルファ | その話が本当なら、 性格が変わるような何かがあったってこと? |
ノンナ | 家族を吸血鬼に殺された。 |
アルファ | え……。 |
ノンナ | オリヴィエが組織に来たのは、そのあとのことらしい。 そこで細胞に適合して才能に目覚めたんだと。 |
ノンナ | でも、その時点で強くなっても、もう遅いよね。 家族は死んじゃってるんだし。 |
ノンナ | これは私の想像だけど…… オリヴィエは、戦う理由が見つからないんだと思う。 |
アルファ | あなたの想像が事実なら厄介なものね。 大事なものが過去にある人は、なかなか変われないのだから。 |
ノンナ | 達観してるね。 アルファみたいな人は、意外と合うかもしれないよ。 |
アルファ | ……オリヴィエと? |
ノンナ | 彼女ともだし、リリやフレイヤともね。 |
ノンナ | リリは生まれた時から組織にいて、組織に育てられた。 きっと途中で入った人間にはわからない、 つらいこともあったと思う。 |
ノンナ | それでも彼女は他人にあたったりしない。 反対に、みんなを励ましてる。 誰かがリリを、聖母って呼んでた。彼女にピッタリだ。 |
アルファ | 聖母ね……。 |
ノンナ | フレイヤもそうだよ。 厳しくて融通が利かないところはあるけど、 彼女の指示には迷いがない。 |
ノンナ | 実は誰よりも仲間想いなんだろうね。 だから……仲間を守るために厳しくなったのかもしれない。 |
アルファ | 全部あなたの推測よ。 |
ノンナ | そうだよ。彼女たちを信頼する仲間の、推測だ。 そこそこ芯を食ってると思うけどねえ―― |
アルファ | 今のは……。 |
ルージュ | アルファ。この周辺に目立った吸血鬼はいない。 それから、姿は確認できなかったけど、 どうやら東組も無事に突入して、戦っているみたい。 |
アルファ | そう。良かったわ―― |
アレクシア | くっ!! |
ルージュ | っ!? アレクシア……!? |
ノンナ | まあ、待ちなって。 |
ルージュ | アレクシアが押されて苦しんでる! 助けないと! |
ノンナ | 助けられるほうが苦しいこともあるんだよ。 |
ルージュ | え……? どういう……。 |
アレクシア | はああああっ!! |
ルージュ | ………………。 |
ノンナ | あれが、押されて今にも死にそうな目に見える? |
ルージュ | ……いや。 異様な執念すら感じる……。 |
ノンナ | 彼女はまだ、戦ってる。 |
ノンナ | それを外野が勝手に、助けなきゃなんて思って、 余計な手出しをしたら? |
ルージュ | ……分かった。 もう少し見守ることにする。 |
ノンナ | それがいいよ。 アレクシアに刺されたくなかったらね。 |
アルファ | ……ねえ、もしかしてだけれど、 あなたたち付き合いは長いの? |
ノンナ | ああ、そうだよ。よく分かったね。 |
ノンナ | 私たちは西国の出身。 流浪の旅人として、この国へやって来たんだ。 |
ノンナ | 旅をしながらたくさんの吸血鬼を葬ってきた。 ルージュは腕が立つからね。 組んだ時からずっと頼りっぱなしだよ。 |
ノンナ | ルージュがいなかったら生きていけない。 大げさじゃなく、そう思ってるよ。 |
ルージュ | っ! ま、またすぐ、 調子いいことを……。 |
ルージュ | そんなこと言われたら、私は……。 |
アルファ | (もしかして、ルージュはノンナを…… なんて、私が考えることじゃないわね) |
Episode 6
アレクシア | っ、はあああっ!! |
アレクシア | くっ、う……! |
アルファ | (手を出さずにいたけど、王女はそろそろ限界みたい。 しかたないわね――) |
アレクシア | ……え? |
アルファ | 下がりなさい。 これ以上は危険よ。 |
アレクシア | 何を……!? っ、邪魔しないで! |
アレクシア | 私は……私は…… 証明しないと、いけないのよ……! 彼の剣を……私の剣を……否定なんてさせない……っ! |
ルージュ | 無茶をしてはいけない。 |
アレクシア | ルージュ……。 |
ルージュ | 命を落としてしまえば、自分の剣がどうなんて言えなくなる。 未来のことを考えるべきだ。 |
ルージュ | あなたの剣には、 ここに至るまでに経験した、多くの苦労が見える。 |
ルージュ | 傷つき、苦しみ…… それでもなお進もうとする、立派な『持たざる者の剣』だ。 |
アレクシア | ……なんですって? |
アレクシア | 立派……? 天才の剣の前に、呆気なく敗れ…… 有象無象の吸血鬼にすら、押される、剣が……? |
ルージュ | アレクシア? |
アレクシア | ……知ったようなこと、言わないで。 |
ノンナ | ルージュ! |
ルージュ | っ! |
アレクシア | いいわ……見せてあげる! 証明してあげる! 私の剣が、誰よりも強いってことを! |
アレクシア | ああああああああ! |
アレクシア | 邪魔よ。 |
アルファ | (吸血鬼を一撃で…… どうして、彼女がこの姿に……!?) |
イータ | うーん、なんだかやばそう……? もうちょっと離れてようかな……。 |
ノンナ | またこの変身……。 未来人の特殊能力なのかな。 |
559 | そんなわけあるか。 こんなの、元の世界でも見たことない。 |
イプシロン | むしろ禍々しい……そう、魔人ディアボロスのような……。 制御出来ない力に取り込まれ、我を失っているみたい。 |
アルファ | 魔人化。 |
イプシロン | えっ。 |
アルファ | まるで魔人ディアボロスのような、凶暴さ。 制御を失い、理性をなくして暴れ回るこの現象……。 |
アルファ | 魔人化、としかいいようがないわね……。 |
アレクシア | ふふふ、見たかしら? |
アレクシア | 努力と研鑽によって、持たざる者の剣は最強の剣になった! 私は彼を……シャドウを越えたのよ! |
イプシロン | シャドウ様を越えたなんて、 そんなわけないでしょ! |
アレクシア | 証明してあげる。 でもねえ、あなたごとき、駄犬ではダメよ。 シャドウを出しなさい!! |
イプシロン | っ!? く……! |
アレクシア | あはっ! ほら右ィ! 次は左ィ! さあさあ、必死に避けないと、首が飛ぶわよぉ! |
アルファ | イプシロン、退きなさい! |
イプシロン | アルファ様……! |
アレクシア | シャドウ! シャドウ!! 出てきなさい!! |
アルファ | (シャドウは死んでしまった。 それは彼女も知っているはずなのに……!) |
559 | アルファ様! サポートします―― |
アルファ | 来るな! |
559 | っ!! |
アルファ | あなたの手には負えないわ! 下がっていなさい! |
559 | し、しかし―― |
アレクシア | シャドウ!! |
アルファ | くっ!! |
アルファ | (彼女の剣……たしかにシャドウに似てるわ) |
アルファ | (力づくで止めるしかないけど…… 手加減ができるような相手じゃない!) |
アレクシア | シャドウ! いつまで隠れている気!? あなたがそのつもりなら……いいわ! 仲間を皆殺しにしてあげる! |
アレクシア | そうすれば、あなたも出てくるでしょう? |
アルファ | まずい……! みんな、逃げ―― |
アレクシア | はああああっ!! |
アルファ | (壁が……崩れる……!) |
ルージュ | ノンナっ!! 危ない!! |
ノンナ | な……! |
ノンナ | ルージュ……? |
アルファ | 土煙で前が見えない……イプシロン、559! |
イプシロン | はい、無事です! 559も一緒にいます! |
559 | はい! 負傷もしていません! |
アルファ | イータは!? |
イータ | 無事……。 避難してて、正解だった……。 |
アルファ | ノンナ、ルージュ! |
ノンナ | あ……アルファ! ルージュが、ルージュが崩壊に巻き込まれた! |
アルファ | っ! |
ノンナ | 瓦礫の下敷きになってる……! た、助けないと……! |
アルファ | この瓦礫の中から……。 |
アルファ | ノンナ、落ちついて。 あなたもわかっているはずよ。 |
ノンナ | それは……でも……! |
アルファ | ノンナ。 |
ノンナ | ……わかった。 |
アルファ | ……一旦、離脱するだけよ。 ルージュの安否はわからないわ。 諦めないで。 |
ノンナ | ……ありがとう。 |
アルファ | いいのよ。 さ、急ぎましょう。 |
Episode 7
シャドウ | ………………。 |
ベータ | シャドウ様? どうかなさったのですか? なんだか、難しい顔をされています……。 |
シャドウ | 人間は愚かな生き物だ。 |
ベータ | え? |
シャドウ | シャドウ様キングダムが覇権を獲り、 より良い世界となった。 だがそれを理解しない者がいる。 |
ベータ | まさか…… シャドウ様キングダムの崩壊を目論む、 反抗勢力が現れたのですか!? |
シャドウ | ああ。 我が首を狙っているらしい。 |
ベータ | なんて愚かな……! シャドウ様に逆らうなんて許せません。 見つけ次第、排除しましょう。 |
ベータ | シャドウ様のためなら、私―― |
ゼータ | ベータ。 |
ベータ | っ!? |
ゼータ | え、何? なんで驚いてるの? |
ベータ | ……いえ、なんでもありません。 みなさん、戻って来たんですね。 |
フレイヤ | これでひとまず東側の制圧は完了です。 |
フレイヤ | 西側のアルファさんたちと合流する前に、 少し休憩を取りましょう。 |
リリ | みなさん、お水をどうぞ! 怪我をしている人がいたら言ってください。 リリが治療しますので! |
リリ | オリヴィエさん、怪我はありませんか? |
オリヴィエ | ない。 自分よりもあいつを見てやれ。 |
クレア | ………………。 |
リリ | え!? クレアさん、怪我を!? |
クレア | ……たいしたことないわ。 オリヴィエが前に出てくれたから、軽傷よ。 |
ゼータ | 軽傷、ねえ……。 |
クレア | 何よ? |
ゼータ | 替えの服に着替えてるし、 少なくとも服はダメになったんだろうなあって。 切り裂かれた? それとも返り血? |
クレア | ……両方よ。 替えの服があって良かったわ。 まあ、1着は台なしになったのは残念だけど。 |
サラサ | この時代の服、気に入ってくれて嬉しいわあ。 |
クレア | この格好をしていれば周囲に溶け込むことができるしね。 |
サラサ | うんうん。とってもお似合いよお。 クレアさん、かわいい。 |
クレア | かわいい……は置いておいて。 見た目だけではなく、機能的な服よね。 |
ベータ | 分かります。 とっても、かわいいデザインですよね。 |
クレア | だから、かわいいとかそういう問題じゃ……。 |
ベータ | いえ。毎日身につけるものですし、 シャドウ様に好意的に見てもらいたいですし。 |
ベータ | 大事な問題ですよ。 |
クレア | 好意的って……。 というか、シャドウは―― |
フレイヤ | 誰!? |
吸血鬼 | あ……。 |
オリヴィエ | 生き残りがいたのか。 |
フレイヤ | オリヴィエが気づかないだなんて、 気配を消すのがとてもお上手なんですね。 |
吸血鬼 | ま、待ってくれ! 戦うつもりはない、降参する! |
オリヴィエ | 命乞いは無駄だ。 一瞬で終わる。 |
吸血鬼 | ひっ! |
リリ | あの、戦意はないようですが……。 |
フレイヤ | いつも言ってますよね。 嘘かもしれないし、本当だとしても心変わりするかもしれない。 |
フレイヤ | 何にしても、生かしておくメリットはない、って。 |
リリ | それは……はい。 分かりました。 |
吸血鬼 | がはっ……。 |
オリヴィエ | ん? |
フレイヤ | ……え? |
リリ | なんで、ベータさん……? |
ベータ | シャドウ様のためですから。 やるべきことはやらないといけません。 |
ゼータ | だからって、急に…… まさかベータが手にかけるとは思わなかった。 |
ベータ | 急にではありませんよ。 私たちはずっと、シャドウ様のために動いています。 |
ゼータ | それはそうだけど……。 |
フレイヤ | なんにしても、よくやってくれました。 |
リリ | ………………。 |
フレイヤ | あなたのような優秀な人材がこちらにいて、 アルファたちは大丈夫でしょうか? |
フレイヤ | あちらにはノンナとルージュがいますけど、 戦力的にはこちらより劣っていますよね。 |
ゼータ | 無用の心配だね。 アルファ様がいれば問題ない。 |
オリヴィエ | そんなに信用できるのか? |
ゼータ | まあね。 ……何か問題が? |
オリヴィエ | 別に。 |
オリヴィエ | ただ、アルファが強いのは認めるが、 それより強い……シャドウだったか。 |
オリヴィエ | 彼は、ディアボロスに負けて死んだんだ。 過信はするなよ。 |
ベータ | ……は? シャドウ様が、死んだ……? |
Episode 8
アレクシア | シャドウ! 早く出てきなさい!! |
アルファ | (この場所に隠れていたら、 いずれ見つかってしまうわ) |
アルファ | もっと奥へ移動しましょう。 |
ノンナ | ここは……。 |
559 | 激戦のあとか? 半壊している。 |
イータ | けほ……ここ、喉痛い……。 |
イプシロン | こうも瓦礫だらけだと、 足の踏み場もありませんね……。 |
アルファ | 待って。 人の気配がするわ……。 |
ベータ | あれ? その声はもしかして、アルファ様ですか? |
アルファ | ベータ? あなたどこにいるの? |
ベータ | ちょっと待ってください。 瓦礫が邪魔をして、出れなくて……! |
ベータ | それよりも、アルファ様! 良かった、無事だったんですね。 |
アルファ | 無事ではあるけれど、 問題がないとは言えない状況よ。 |
アルファ | そちらは大丈夫なの? 崩壊具合からして、苦戦したのかしら? |
ベータ | いえ、そうでもありませんよ。 東組は突入したあと、 迅速に吸血鬼を倒して制圧していきました。 |
ベータ | 大きな被害が出ることもなく、 アルファ様たちと合流するところでした。 |
アルファ | それじゃ、この瓦礫の山は? |
ベータ | それは……シャドウ様が死んだなんて、 失礼なことを言う逆賊が現れたからです。 |
アルファ | ……え? |
ベータ | だけどご安心ください。 すでにシャドウ様と一緒に、殲滅しましたから。 |
アルファ | ベータ、あなた、何を……。 |
アルファ | シャドウは……死んだのよ? |
イプシロン | お、オリヴィエ!? |
ノンナ | 酷い怪我……一体、何が……。 |
アルファ | オリヴィエ? |
オリヴィエ | ……逃げろ、アルファ。 そいつは、もう……。 |
アルファ | ……もしかして。 |
ベータ | 逆賊、みーつけた。 |
アルファ | がはっ!? |
アルファ | ……ベータ、あなた……。 |
Episode 9
アレクシア | シャドウ! 早く出てきなさい!! |
アルファ | (っ、時間が戻った……! 不可逆の懐中時計が発動したのね) |
アルファ | (でも――) |
アレクシア | 犬の分際で私の邪魔をしているのね! 首を刎ね飛ばしてやらないと! |
アルファ | (時間軸が戻った地点で、 アレクシア王女はもうすでに魔人化している……) |
アルファ | (つまり、もう、彼女を救う方法は……) |
アルファ | (だけど……ベータはまだ、間に合うかもしれない。 今すぐ東組のほうへ向かえば――) |
アレクシア | シャドウを出しなさい!! |
アルファ | みんな、聞いて。 このまま隠れていてもいずれ見つかるわ。 移動して、東組と合流しましょう。 |
イータ | うーん……敵の目を盗んでの移動は、 かなり厳しい気が……。 |
アルファ | それは……。 |
アルファ | (確かにイータの言う通りだわ。 でも、今ならまだベータの魔人化を、 防ぐことができるかもしれない) |
559 | アルファ様。 |
559 | 私がしんがりを務めます。 どうぞ先に行かれてください。 |
イプシロン | この状況のしんがりって、 どういう意味かわかってる? |
アルファ | 魔人化したアレクシア王女の力は、 ひとりでどうにかできるレベルではないのよ。 |
559 | 覚悟の上です。 ご安心ください。 |
559 | それに彼女は、また大暴れして周囲を破壊するでしょう。 建物の崩壊に紛れて上手く離脱します。 どうぞ、お任せください。 |
アルファ | そういうわけにはいかないわ。 隙を見て、一緒に脱出しましょう。 |
アルファ | ……分かったわ。 お願い出来るかしら? |
Episode 10
559 | ここはお任せください。 |
559 | 私も機を見て離脱しますので。 さあ、お早く。 |
アルファ | (心配だけど、今は彼女を信じて、 ベータのところへ急がないといけないわ) |
アルファ | 559、よろしくね。 くれぐれも無理はしないで。 |
559 | はい―― |
アルファ | (お願い、間に合って!) |
アルファ | ベータ! |
ベータ | シャドウ様は死んでなんかいない!! |
ベータ | っ、ああああ……っ!! |
イプシロン | ベータ!? あなた―― |
アルファ | イプシロン! 今ならまだ間に合うわ! 援護して! |
イプシロン | え? あっ、はい! |
ベータ | シャドウ様が死んだなんて妄言を吹聴して、 王国に混乱をもたらそうとしているんでしょう!? |
ベータ | そんなの絶対に許せませ……なっ!? |
アルファ | 落ちつきなさい、ベータ! |
ベータ | アルファ様……!? どうして邪魔をするんですか!? |
アルファ | 邪魔をしているわけじゃない。 あなたを止めようとしているの。 |
ベータ | そんなっ! どうして……そこに逆賊がいるのに! |
フレイヤ | まさか、また……。 |
アルファ | ええ。戻ってきたわ。 |
アルファ | 前回、ベータは完全に魔人化して、 あなたたちは全員やられていたの。 |
アルファ | だけど、今回は……! |
ベータ | あああっ! シャドウ様! 来てくださったのですね! |
イプシロン | えっ……シャドウ様!? |
アルファ | 嘘……。 |
サラサ | がはっ……!? |
フレイヤ | サラサ! |
オリヴィエ | ……違う。これはシャドウじゃない。 |
オリヴィエ | 実態のない、幻影のようなもの。 ……ただの魔力の塊だ。 |
アルファ | 幻影……? ベータ……あなたが? |
ベータ | 違いますよ、アルファ様。 そこにいらっしゃるのは本物のシャドウ様です。 |
ベータ | シャドウ様キングダムを興して、 一緒に世界を統治しているんです。 |
アルファ | ベータ……。 |
アルファ | ごめんなさい。あなたに負担をかけすぎたのかしら。 私がついていながら……。 |
アルファ | 何があったの? あなたは何を感じて、何が苦しかったの? |
アルファ | 知らなくてごめんなさい。 だけど知りたいから、全部教えて欲しいの。 |
ベータ | それは―― |
ベータ | アルファ様……私、たくさん戦いました。 シャドウ様のために……。 |
アルファ | ええ、そうね……。 |
ベータ | 殺す必要がなかったかもしれない人間も、 手にかけました。 |
ベータ | だけど、それが正しいのか分からなくて……。 だって、私の正しさはシャドウ様だったから。 |
ベータ | シャドウ様がいないと……よくやったベータって 褒めてもらわないと、私は……。 |
ベータ | 私は……本当にこれでいいのかって、不安で……。 |
アルファ | ……そう。戦うことが嫌いなあなたが、 そんなことを……。 |
ベータ | シャドウ様……ああ……分かっています。 逆賊は、皆殺しです。 |
ベータ | あなたのためなら、私はどんなことでも……! |
オリヴィエ | くっ……! この影……! |
アルファ | ベータ……。 |
ベータ | がはっ! |
イプシロン | アルファ様!? |
アルファ | ベータ、ごめんなさい。 つらい思いをさせたわね。 |
ベータ | ぐ……あっ……。 |
アルファ | 私が、私が、気づけていたら……。 |
アルファ | ……次は、必ず救う。 だから、今は……。 |
フレイヤ | 幻影が消えましたね。 |
オリヴィエ | 発動者が死ねば消えるのか。 |
リリ | ベータさん、どうか、安らかに……。 |
オリヴィエ | だが、これで……。 |
オリヴィエ | ……いや。 一段落、とはいかないみたいだな。 |
アルファ | っ!? |
アレクシア | あはっ! 犬が増えてる! |
アレクシア | ここにいる全員を倒せば、 さすがのシャドウも隠れていられないでしょう? さあっ、出てきなさい! |
オリヴィエ | 闇に飲まれたか。 面倒ごとを増やしやがって。 |
アレクシア | あんたは……あはっ! あんたにも恨みがあるし、シャドウの前にサクッとやっとく!? |
オリヴィエ | くっ……。力も速さも、以前とは別人だな。 |
オリヴィエ | だが! |
アレクシア | っ!? |
オリヴィエ | 見くびるな。お前程度なら、 例え化け物じみた力を手に入れても……。 |
アレクシア | うぐっ!? |
オリヴィエ | 負けはせん! |
アレクシア | こんの……ホント、むかつく。 |
アレクシア | はああああっ!! |
オリヴィエ | ぐっ、あっ……! |
リリ | オリヴィエさん! すぐに治します! |
オリヴィエ | っ、来るな! |
アルファ | (あのオリヴィエが……このままじゃ、また……) |
アレクシア | あんたもよ。 |
アルファ | え―― |
アレクシア | 遺体を抱えて剣すら抜かないなんて、ナメてるの? 戦う気がないなら、さっさと死になさい。 |
アルファ | しまっ――がはっ!? |
アレクシア | 全員、首を刎ねてやる。 |
アルファ | (これは……マズイ、かも……) |
Episode 11
アルファ | ああなってしまったら、 あなたひとりの手には負えない。 |
アルファ | 全員で対処して、 隙を見て全員で離脱するのよ。 |
559 | アルファ様……はい。 足を引っ張らないように努めます―― |
559 | っ! |
アレクシア | 見つけた。 こんなところに隠れていたのね。 |
アレクシア | タロー、ジロー、ハチ、ペス! ……と、その他! そこに並んで首を差し出しなさい! |
アルファ | 時間がない。すぐ終わらせるわ。 |
アレクシア | ふふふ、躾がなってないわね。 牙を剥く犬は……首を刎ねてあげる! |
559 | っ!! く!? |
イプシロン | 559! |
559 | だい、じょうぶ……ですっ! |
アレクシア | やり返してくるなんて生意気ね!! |
559 | ぐっ! |
アレクシア | 芸でも披露する? 私が気に入ればペットにしてあげるわよ? |
559 | 冗談じゃない! 誰がっ―― |
アレクシア | そう。 しつこいのね。 |
559 | が、は……。 |
アルファ | 559!! |
559 | っ、く……! |
アレクシア | ちょっと、どういうつもり? 汚い手で触らないで! |
アレクシア | 私が会いたいのはシャドウだけ! あんたには用はない! |
アレクシア | 切り刻まれて、絶命する寸前で、 地べたに倒れ込みながら私にすがる。 |
アレクシア | そんなシャドウが見たいの! 早くシャドウを出しなさい! |
559 | ぐあっ!? |
559 | アルファ、様!! 行って、ください……! |
アルファ | あなた、本気で……!? |
559 | 早くっ!! |
ノンナ | アルファ、行こう! 彼女の覚悟を無駄にしてはいけない! |
アルファ | っ……ありがとう。 |
アルファ | (ついたわ。 ベータたちがいるのは、この奥の――) |
アルファ | ……!? |
ベータ | ああっ、シャドウ様、何を! そのような虫けらの始末はベータにお任せを! 剣をお納めください! |
ベータ | シャドウ様キングダムの崩壊を目論む逆賊め! ひとり残らず処断します!! |
イータ | ベータ……暴れてる……。 |
イプシロン | ア、アルファ様、あれは……!? |
アルファ | ベータ…… 間に合わなかったのね……。 |
イプシロン | 間に合わなかったって…… もしかして、未来から戻ってこられたんですか!? |
アルファ | そうよ。 だから急いでベータのところへ来たけど、遅かった…… あの子の魔人化を、私は止められなかったのね―― |
Episode 12
アレクシア | シャドウ! 早く出てきなさい!! |
アルファ | っ、は……! |
ノンナ | アルファ、どうした? |
アルファ | また、ここへ戻って来たのね……。 |
ノンナ | また? |
アルファ | アーティファクトが、 不可逆の懐中時計が発動した……。 |
アルファ | この拠点に突入してからは、 もう2度、戻っているわ。 |
イータ | ……何があったの? |
アルファ | (説明している時間は……前回以上にない。 全力で向かっても、ベータの魔人化には間に合わない) |
アルファ | (どうすれば……) |
アレクシア | 見つけた。 こんなところに隠れていたのね。 |
アレクシア | タロー、ジロー、ハチ、ペス! ……と、その他! そこに並んで首を差し出しなさい! |
ノンナ | 見つかった……! |
559 | アルファ様たちはお逃げください。 ここは、私が足止めを―― |
アルファ | ダメよ。 その結果がどうなるかは、もうわかっているの。 |
559 | アルファ様……? |
イプシロン | もしかして……戻って来られたのですか? |
アレクシア | 何? 死にたくないの? だったらシャドウを出しなさい! 私が用があるのはあの男だけよ! |
アルファ | (考えて……) |
アルファ | (私たちが全力でベータのところに向かっても、 絶対に間に合わない) |
アルファ | (それに最後は、 あとから来たアレクシア王女に殺されるはず) |
アルファ | (どうすれば……) |
アルファ | ……本当に、見逃してくれるの? |
イプシロン | アルファ様!? |
アレクシア | ええ、もちろんよ。 ようやくシャドウの居場所を白状する気になったのね。 |
アルファ | 気づいたのよ。シャドウをあなたと会わせたところで、 シャドウが負けるはずない、ってね。 |
アレクシア | ……は? |
アルファ | 信じられないようね。 |
アレクシア | 当たり前じゃない。 私は最強に至ったの。 |
アレクシア | シャドウごときに、負けるはずがない。 適当なこと言ってると……殺すわよ? |
アルファ | だったら、試してみなさい。 シャドウはこの先の通路を抜けた場所にいるわ。 |
アレクシア | ……いいわ。シャドウを倒したあとで、 あなたたちとも遊んであげる。 |
559 | アルファ様、どういう……。 |
アルファ | もうすぐ、ベータも魔人化に飲まれるところよ。 |
559 | そうなのですか!? |
アルファ | だけど、今から全力で向かっても間に合わない。 ベータは、複数のシャドウの幻影を操って、攻撃してくる。 |
アルファ | 一方でアレクシア王女はすでに魔人化している。 そして、シャドウに異常なまでに執着している。 |
アルファ | これらが、私が未来で得た情報よ。 |
アルファ | 魔人化したふたりを相手取っても勝ち目はない。 ……ふたりどころか、ひとりでもね。 |
アルファ | だったら、相打ちさせるしかないわ。 |
アルファ | アレクシア王女がシャドウに執着しているのなら、 引き合わせて相打ちさせればいい。 |
アルファ | ベータが作り出す、無数のシャドウの幻影にね。 |
559 | な、なるほど……。 そこまでお考えなのですね……。 |
アルファ | 相打ちになったふたりを制圧。 その後に探すのよ、魔人化を解除する方法を。 |
イプシロン | アルファ様……。 |
アルファ | もっと具体的に、これまでに何があったのかは、 道すがら説明するわ。 |
アルファ | (次は必ず救うと、ベータと約束したのに、 こんな、問題を先延ばしにすることしかできないなんて) |
アルファ | 私は……無力ね。 |
Episode 13
フレイヤ | あなたのような優秀な人材がこちらにいて、 アルファたちは大丈夫でしょうか? |
フレイヤ | あちらにはノンナとルージュがいますけど、 戦力的にはこちらより劣っていますよね。 |
ゼータ | 無用の心配だね。 アルファ様がいれば問題ない。 |
オリヴィエ | そんなに信用できるのか? |
ゼータ | まあね。 ……何か問題が? |
オリヴィエ | 別に。 |
オリヴィエ | ただ、アルファが強いのは認めるが、 それより強い……シャドウだったか。 |
オリヴィエ | 彼は、ディアボロスに負けて死んだんだ。 過信はするなよ。 |
ベータ | ……は? |
ベータ | シャドウ様が……死んだ? |
シャドウ | ……逆賊が、見つかったようだな。 |
シャドウ | 我が、出よう。 |
ベータ | あ……あ……あ……。 |
クレア | ベータ? |
ベータ | ああっ、シャドウ様!! ああああああああっ!! |
ゼータ | ベータ……!? そんな、どうして……! |
フレイヤ | くっ!? |
オリヴィエ | フレイヤ、下がれ。 |
ベータ | 逆賊が……逆賊がたくさん! |
オリヴィエ | くっ! |
リリ | オリヴィエさん!? |
オリヴィエ | さすがに手強いか。 だが……はあっ! |
ベータ | ああ、シャドウ様! なんて美しい剣筋なのでしょう! |
ベータ | 強いだけではなく、思わず見惚れるような……。 それでこそ、私の王です! |
ゼータ | な、何言ってるんだよ。 シャドウなんてどこにも……。 |
ゼータ | ぐっ!? |
ベータ | ……は? ゼータ、あなたまで何を言っているんですか? シャドウ様はご健在です! |
ベータ | まさか、反抗勢力に取り込まれてしまった……? ああ、そんな…… どうしましょう、シャドウ様……! |
ゼータ | ……は? 主? しかも……複数? |
オリヴィエ | 惑わされるな。 これは幻影だ! |
ゼータ | うっ!! |
ベータ | ゼータ! シャドウ様が怒っていらっしゃいますよ! 早く平伏して謝ってください! |
ゼータ | ぐはっ! 実体がないのに……重い! |
ベータ | よくもシャドウ様キングダムの崩壊を目論みましたね! その愚かな野望もここまでです! |
オリヴィエ | ゼータ! 助太刀する余裕はない! そっちは自分でどうにかしろ! |
ゼータ | 自分でって…… 幻影とはいえ、主相手に私がどこまで―― |
ゼータ | がはっ……! |
リリ | ゼータさん! |
サラサ | リリちゃん! わたしとクレアさんで時間を稼ぐわ。 その間にゼータさんの治療と回復を! |
リリ | は、はい! |
クレア | もし、本物並の実力だったら……。 |
サラサ | だったら? |
クレア | 稼げる時間は、ほとんどないわ。 |
サラサ | ……でも、やるしかないのよねえ。 このままじゃ、全滅しちゃうって思うから。 |
アレクシア | シャーードウ!!! |
アレクシア | あはっ、見ィつけた! しかも、たくさん! |
クレア | アレクシア、王女……!? なんで、どうして、その姿に……!? |
アレクシア | シャドウ! あなたを倒すために探していたの。 ここでその首を落としてあげるわ! |
ベータ | ……首? シャドウ様の首を狙う……反抗勢力……? |
ベータ | ああああっ!! あなたも敵なんですね! シャドウ様を狙う不届き者! |
アレクシア | 何? うるさいわね。 あなたに用はないんだけど。 |
オリヴィエ | これは、いったい……? |
アルファ | 無事に出会ったようね。 |
ゼータ | え……アルファ様……? |
Episode 14
アレクシア | シャドウ、あんたを殺して証明するわ! この私の剣が最強だってことを! |
アレクシア | あはっ! ほーら、死んじゃった! |
ベータ | 何を言っているのか理解に苦しみます。 シャドウ様がやられるはずないでしょう? |
ベータ | ああっ、なんて凛々しいお姿……! シャドウ様キングダムの民は、なんて幸せなのでしょうか! |
アレクシア | ふん! 一度越えてしまえば、あとは何度だって倒せるわ! はああっ!! |
ベータ | シャドウ様!! |
アレクシア | ふふふ、ほらね! |
ベータ | さすがシャドウ様。 やられたと見せかけて増殖し、相手の心を折る作戦ですね! |
アレクシア | なんですって!? いいわ……何回だって倒してあげる! |
オリヴィエ | ……何も言えないな。 |
ゼータ | ベータが出現させた幻影のシャドウを、 アレクシア王女が次々に消していってる…… どんな光景だよこれは。 |
アルファ | 幻影も含めたあの3人……誰をとっても、そう。 私たちが数人がかりで飛びかかっても、 相手にならなかったものね。 |
フレイヤ | だからこそ、これは好機です。 |
フレイヤ | 彼女たちが戦っている間に、 わたくしたちは脱出しましょう。 |
クレア | ふたりを置いていくの? |
フレイヤ | 他にいい案がありますか? |
クレア | それは……。 |
アルファ | 置いていく気はないわ。 相打ちになったところを押さえるの。 |
アルファ | だけど、ここに居続けても巻き込まれるだけ。 一時的に離れましょう。 |
クレア | ……分かったわ。 |
フレイヤ | ………………。 |
フレイヤ | ――この道も行き止まりのようですね。 |
ゼータ | まさか侵入してきた経路が崩落してるとはね……。 |
イプシロン | アレクシア王女が散々暴れた影響かしら。 |
サラサ | 逃げた吸血鬼が、 追っ手を撒くために破壊した可能性もあるわねえ。 |
ベータ | 見つけました。 |
アルファ | ……っ!? ベータ……! |
ベータ | シャドウ様に反抗する勢力を、 みすみす逃すわけにはいきません。 彼の隣に立つ王妃として、処理します。 |
イプシロン | 王妃……? 何を言ってるのか全然わからないわ。 いい加減、正気に戻りなさいよ! |
ベータ | 正気? それはこちらのセリフです。 何故、あなたたちがそちらに与しているんですか? 何故、シャドウ様キングダムの平和を脅かそうとするんですか!? |
イプシロン | っ、全然話が通じないんだから……! |
オリヴィエ | あの男の幻影はいないようだな。 |
イータ | 幻影は、王女と戦ってる……。 疲弊してるし、多分、もう出せない……。 |
オリヴィエ | 叩くなら、今か。 |
リリ | 待ってください。 ベータさんと戦わなくても、 説得をしてみるのはどうでしょう? |
ゼータ | ……は? 説得? |
リリ | はい! ベータさんはリリたちや、アルファさんたちが憎くて、 絶対に倒したいってわけではないみたいです。 |
リリ | だから、リリたちが、その……反抗勢力? そんなのじゃないって話せば、 戦うのをやめてくれると思うんです! |
フレイヤ | ベータは妄想と現実の区別がつかなくなっている、 話にならない相手を、どうやって説得するつもり? |
リリ | えっと、は……話してみないと、 本当に通じないかわかりません! |
リリ | 心を込めて話せば、きっと! |
ゼータ | ………………。 |
オリヴィエ | そんな時間はない。 さっさと行け……っ! |
リリ | それは……できません! |
オリヴィエ | だから、この状況が分かって―― |
リリ | 違います。オリヴィエさんを、 置いていけないと言ってるんです。 |
オリヴィエ | お前……。 |
フレイヤ | わたくしも、リリの考えに賛成です。 オリヴィエ、リリ、ここはふたりでお願い出来ますか? |
フレイヤ | 負けなければ良くて、勝つ必要はないのですから、 死ななければよいのです。 |
フレイヤ | そしてリリがいる以上、オリヴィエは絶対に死なない。 逆にいうと、リリだけは死守してください。 |
リリ | はい! 任せてください! |
オリヴィエ | 相変わらず非人道的なことを言う奴だな。 だがまあ、いいだろう。 |
フレイヤ | ふたりを信頼してこそですよ。 よろしくお願いします。 |
Episode 15
ゼータ | (……リリ様、さっきベータを説得しようとしていたけど、 暴走した仲間の姿は散々見てきたはずだ) |
ゼータ | (出会ったばかりのベータを、あそこまで気にかけるなんて、 愛が深い……といえばそうかもしれないけど……) |
ゼータ | (少し幼い……印象もあるような……) |
アルファ | みんな急いで。 脱出経路を探しましょう。 |
アルファ | オリヴィエとリリが稼いでくれる時間を、 無駄にはできないわ。 |
イプシロン | アルファ様! 誰か来ます! |
アルファ | あれは―― |
アレクシア | はあ、はあ……シャドウは全員倒したわ…… っ、これで、私の剣が最強だって、 証明できた、でしょう……!? |
クレア | アレクシア王女……。 |
559 | チッ……間の悪い。 |
イプシロン | 見たところ、満身創痍……肩で息をしてるし、 体力もかなり消耗しているみたいね。 |
イータ | これなら、私たちでも……。 |
ベータ | シャドウ様を倒したなんて、 またそんな妄言を吐くんですか!? |
アルファ | ベータまで!? オリヴィエとリリが、抑えててくれたはずじゃ……。 |
オリヴィエ | そのつもりだったんだが。 |
サラサ | よかった、オリヴィエちゃん、リリちゃん。 無事だったのね。 |
リリ | はい、なんとか。 |
オリヴィエ | 幻影を倒して、戻ってきたアレクシアが見えたんでな。 こっちまで誘導してきた。 |
フレイヤ | いい判断です。 ベータもアレクシアも、消耗しているようですから。 |
フレイヤ | あとは……。 |
アレクシア | くっ! 妄言じゃないわ! 事実……よっ!! |
ベータ | そんなはず、そんなはず、ありません! シャドウ様! シャドウ様!! |
アレクシア | ほーら! 呼んでも出てこないじゃない! |
ベータ | っ!! |
アルファ | ベータ……。 |
オリヴィエ | そろそろ、決着がつく。 |
ベータ | シャドウ様は…… 私たちを残して消えたりしない! |
ベータ | それが……どうして分からないのよおお!!!! |
アレクシア | ぐはっ!? |
サラサ | ……ベータさんもかなり消耗していたようですが、 それでも、彼女に分があったようですね。 |
ベータ | はあ、はあ…… シャドウ様を、愚弄する者に……トドメを―― |
アルファ | ベータ。 |
ベータ | っ、アルファ様……? そこを、退いてください……。 |
アルファ | ベータ……っ。 |
ベータ | ……っ、アルファ様…… は、離して……! |
アルファ | よく頑張ったわね。 |
ベータ | ……え……。 |
アルファ | シャドウがいなくなって不安な時に、 負担をかけてしまって、ごめんなさい。 |
アルファ | あなたの気持ちに気づくことも、 寄り添うこともできなかった。 |
ベータ | 何、を……。 シャドウ様は、いなくなってなんか……。 |
アルファ | 好きでない戦いを、たくさんさせてしまった。 頼りすぎてしまったの。 |
アルファ | こんなあなたを見たら、シャドウは……。 |
アルファ | きっと褒めてくれるわ。 よくやった、さすがベータだって。 |
ベータ | ………………。 |
アルファ | だから―― |
ベータ | うっ……! |
アルファ | ゆっくり休んで。 おやすみ、ベータ。 |
Episode 16
イータ | 外に……出られた……。 |
アルファ | さすがに、もうダメかと思ったわね。 |
アルファ | 拠点は壊滅させることができたけど…… 失ったものも大きいわ。 |
イプシロン | ベータはまだ気絶したままです。 途中、意識が戻る様子もありませんでした。 |
ゼータ | だけど、リリ様が……。 |
リリ | ううっ、ぐす……うう、ひぅ……ぐす、うっ…… ルージュさん……ルージュさん……! |
フレイヤ | このまま布に巻いて運びましょう。 |
ノンナ | ………………。 |
オリヴィエ | ノンナ、運ぶのを代わろう。 拠点までは距離がある。交互に―― |
ノンナ | いや、いい。 私が、運ぶ。 |
オリヴィエ | だが……。 |
ノンナ | こうなった以上、私がルージュにしてあげられることは、 もう、そんなに多くない。 |
ノンナ | だから、ひとつも取りこぼしたくないんだよ。 |
オリヴィエ | ……そうか。 |
ゼータ | ルージュは崩壊に巻き込まれたんだよね? |
アルファ | ええ。巻き込まれた地点あたりで、 遺体が見つかったわ。 |
アルファ | もはや誰だか分からないくらい、 ひどく損傷していたけどね。 |
リリ | ううっ……ぐすっ……。 フレイヤさん、やっぱり私……。 |
フレイヤ | 言いましたよね、ダメです。 |
フレイヤ | いくらリリでも、 死んでしまった人間を治すことはできません。 |
フレイヤ | 例え姿形が元のルージュに戻っても、意味はない。 あなたが消耗してしまうだけ。 |
リリ | で、でも……だ、だってぇ……。 |
フレイヤ | そんなこと、ルージュも望んでいないのでは? |
リリ | うぇぇん……ルージュさぁん……。 |
ノンナ | ……行こう。 早く、綺麗な姿に戻してあげたいんだ。 いつまでも血塗れの服なんて……。 |
サラサ | そうね…… 彼女のお気に入りの服を選んであげましょう。 |
リリ | ぐすっ、うううっ、ひっく……。 すごく……優しくて……うっ、ごめんな、さい…… 泣いて、ばっかで……。 |
フレイヤ | ……気にしないで。私とオリヴィエは、死に慣れ過ぎている。 あなたの涙は、私たちの涙よ。 |
フレイヤ | 代わりに泣いてくれてありがとう、リリ。 |
アルファ | ………………。 |
アルファ | (……三英雄。 伝説で聞いていたイメージとは、かなり違ったけど) |
アルファ | (オリヴィエ。 卓越した運動能力と剣の技巧) |
アルファ | (フレイヤ。 無慈悲なほどに、冷静且つ正確な指揮) |
アルファ | (リリ。 人間離れした、膨大な魔力量) |
アルファ | (まだまだ未熟なところが多いけど、 間違いなく、突出した能力をもっている) |
アルファ | (これから彼女たちが、伝説で語られる英雄になっていくのが…… なんだか、少しだけ楽しみだわ) |
アルファ | ベータとアレクシア王女も、 ガンマと同じ場所に幽閉しておきましょう。 |
ゼータ | 一緒でいいの? 目が覚めたら、またやり合うかもしれないよ? 今度はガンマも巻き込んで。 |
アルファ | その時は―― |
ユキメ | ………………。 |
イプシロン | ユキメ? 寝てるの? まさかあなた、見張りもしないで、ずっと眠って―― |
ゼータ | 待って。 眠ってるんじゃなくて、気絶してる。 |
アルファ | ……え? |
559 | アルファ様? |
アルファ | ガンマが……。 |
ガンマ | ………………。 |
アルファ | 魔人化が……戻ってる? |
謎の男A | ふーん、こんなもんなんだ。 赤黒く濁っていたとしても、魔力は魔力だね。 |
謎の男B | まだまだ不可解なことは多い。 だが、すべての理はいずれ、赤き月の下に晒されるだろう。 |
謎の男C | ですが努々、目を離しませんよう。 これまでの研究が、灰燼に帰す結果となるやもしれません。 |
謎の男D | ふっふっふ……何にしても、 我らの崇高な目的へ、また近づいた。 |
謎の男D | 本当に、よくできた世界だな。 |
第三章に続く…
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